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勇者ちゃんシリーズ

 連載中の勇者ちゃんシリーズ一覧。
 更新は3ヶ月に一回くらいの割合。(今のところ)

 公開順。

勇者ちゃん、旅立つ!

 あれは、16歳の誕生日。  私は──勇者の子は──旅立った。  この物語は、その勇者の子である私が、やがて伝説の勇者と呼ばれ、その仲間たちと共に世界を救う事になるまでの、長い長い、旅の記録である。...

勇者ちゃん、街道を行く!

「ま、まあ、あれです。どうぞ」  と、私は皆を促す。  夕暮れ、城壁から少し離れた、街道はずれの森の入り口。小さな湖の畔に、バンガロー風の家。私の生家だ。もう戻ることはないだろうと思っていたけれど、...

勇者ちゃん、ダンジョンに挑む!

「なるほど、やはりそうか」  と、テネロパ鉱夫ギルドの長であり、この街の実質トップでもある壮年の男性は、唸るようにして呟いた。 「この信書の中身については、何か聞いているのか?」  テネロパの中央区...

勇者ちゃん、森を征く!

 森に面した、小さな村、パルベ。  その小さな村の、小さな酒場に、私たちはいた。 「いやいや、だからちげーよ」  ダガーさんが、私の手元を覗き込みながら言う。そうは言ってもだな…… 「えっと……だか...

勇者ちゃんと、王都の動乱(前編)

 鍵石という不思議な石は、門石という石と共鳴し、ふれあう者たちをその石の元へと転移させる、不思議な力があるという。  眉唾だなぁと思っていたけれど……  果たして、その石の力によって私たちは、 「ど...

勇者ちゃんと、王都の動乱(後編)

「エルフは肉は食わねーかと思ったんだが」  残りのミネストローネを、アルさんが突き出したお椀によそって、ダガーさん。 「鳥は食うのか」 「あ、これ、鳥はいってたのか?」  受け取りつつ、アルさんは言...

勇者ちゃんと、錬金術師の塔

 さすがは聖騎士、チロルさん。  突如森に現れたという、ノヅチとかいう、蛇だかミミズだかよくわからない──頭に口しかなくて、目も鼻もない──気持ちの悪い化け物を、ざくっとその槍で突いて、あっという間...

勇者ちゃんと、竜の赤い石(前編)

 ぽくぽくと、夜明け前の丘を、馬で行く。  西へと伸びる巡礼路は、この丘の向こう、ナール帝国、デヴァリ公国領、エル・トゥラ=ランサ自治区へと続いている。  背中から差し込んでくる朝日が、下草もまばら...

勇者ちゃんと、竜の赤い石(後編)

 それからまた、数日。  配達のお仕事をやったり、研究室に顔を出したり、いつの間にか聖堂城の立ち番に顔を覚えられたりして、何日後かの、満月の夜。  こっそり、私たちは研究室を抜け出した。  研究室前...

勇者ちゃんと、偽りの女王(前編)

 草木の生えない山の上に、その遺跡はあった。  アルさん曰く、森林限界と呼ばれるその先にあった遺跡は、小さな魔力の塔を護るように造られた、かなり古い時代の城塞遺跡であった。 「鉱石魔神がわいてるって...

勇者ちゃんと、偽りの女王(後編)

 燃えさかる炎を沈めるために、ネリさんとむぎちゃんが魔法を詠唱し、局地的な雨を降らせていた。  音もなく降り続ける、霧雨のような雨。  足元に立ち込める薄靄を割って、私たちは倒れたアーオイルの元へと...

勇者ちゃんの、世界の記録

 海から吹き付ける、氷を含んだ冷たい風。  厚い雲に覆われた、北の大地のその向こう。  灰色の空が覆う冷え切った草原の中に、その巨石群遺跡はあった。 「ストーンヘンジより、圧倒的に大スケールだな!」...

勇者ちゃんの、運命の向こう(前編)

「すげぇ!」  アルさんが飛竜の背の上で声を上げた。  見渡す限り、視界のすべては海、海、海。その眼下、ぽっかりと海に大穴が空いていて、そこに滝のように海水が流れ込んでいる。  果ての海のその向こう...

勇者ちゃんの、運命の向こう(後編)

「ユリアー!」 「わ! どうしました!?」  そんなこんなで、私とアルさんは北限の村のさらに向こう、北の最果て、オルムがすべての叡智を残した遺跡の最奥、シーカー達の研究室のドアをばーんと開けて飛び込...

勇者ちゃんの、勇者の資質(前編)

 下の世界、カラニアウラの昼は薄暗く、空は常に厚い雲に覆われていた。  荒涼とした大地に転々と存在するオルムの遺跡には、寄り添うようにオルムの子孫たちがほそぼそと暮らしていたが、その数はごくわずかで...


 下の世界、カラニアウラの昼は薄暗く、空は常に厚い雲に覆われていた。
 荒涼とした大地に転々と存在するオルムの遺跡には、寄り添うようにオルムの子孫たちがほそぼそと暮らしていたが、その数はごくわずかで、古きオルムの作り出した鉱石魔神の方が多いくらいであった。
 静かに滅び行く世界、アウラ。
 私たちはオルムの古き言葉に従い、その世界の遺跡を辿りながら、アーオイルの聖地、ルルスを目指していた。
 空を飛べば──というのは最もな話なのだが、アウラの空は聖地ルルスを中心に、巨人との戦いの際に構築された魔力の壁によって覆われていて、その空を自由に飛ぶ事はかなわなかった。
 アーオイルが賢者の石の欠片を再び賢者の石に結合し、輝かせるためには、この澱んだマナの停滞する大地ではそれなりの時間が必要だろうというのが、ナルフローレの見解だった。どれほどの期間が必要となるかはわからないとの事であったが、私たちとナルフローレの聖騎士達は、いくつかのグループに分かれ、いくつかのルートで聖地ルルスを目指していた。
「代わり映えのしない世界だな」
 台地の上から、アルさんは広大な荒れ果てた世界を見下ろし、呟く。
「静かに滅び行く世界……だって」
 私は隣に立ち、それに返した。
「なんでこんな風になっちゃったんだろうね……」
「オルム曰く」
 アルさんが返していた。
「世界の公理、摂理、その創世に手を伸ばしたが故に、世界によって滅ぼされようとしているとかなんとか」
「人が神になろうとしたが故に?」
「さてね? 俺は別に神の力には興味がないんで、さっぱりわからん」
「私も、別にないけども」
 ひとつ息をついて、私もまた荒涼とした大地を見下ろしながら呟いた。
「アーオイルはなんでまた、そんなものに手を伸ばそうとしたんだろうね」
「ん?」
 アルさんは私の横顔を見、喉を鳴らすようにしてから、聞いた。
「それは勇者ちゃん、俺に意見を求めているのか?」
「別に求めてはいないけども。考えがあるなら、聞くよ」
「別にない」
「でしょうね」
 静かに滅び行く世界、アウラを向こうに見つめながら──アルさんは言っていた。
「何かの理由があったんだろうと思いたいのか? まぁ、この旅路でそれを知ることも出来るとは思うが……」
「で、知った上でさ。それがもしも……もしもだよ? 共感できるような内容だったとしたら、アルさんはどうする?」
「世界を滅ぼすこともやむなしとするかって?」
「いや……まぁ……そうなるのかも知れないけれど……」
「それは……その時にならなきゃわからんな」
「ずるいな」
「おう」
 そして、アルさんはいつものように笑っていた。
「そもそも俺は勇者じゃねぇし、救世の英雄でもないしな」
「押しつけようとしてる?」
「昔、世界を救ったとある魔道士が言っていたんだがね……」
「なにをさ?」
「世界を救うってのは、滅亡の矢面に立つって事だ」
「どういうこと?」
「つまり滅亡の矢面に立つって事は、見たくもねぇモンも見なきゃならねーし、知りたくもねーようなことも聞かされちまうし、いいことなんか、なーんもねぇって事だよ」
 アルさんは滅び行く世界のはるか向こうを見つめながら、
「それでも世界を救うなら、それなりの理由を、自分自身で見つけるしかねぇんだ」
 そう言って笑い、歩き出した。
 理由──ねぇ……
 その背中へ、
「ああ……かわいい女の子を助けるためにとか?」
 と、言うと、
「それ以上の理由はいらねぇな」
 歩きながら振り向きもせず、アルさんは左手をひらひらと振っていた。
「……そんなことだろうと思ったよ」
 仕方なくて、私も一つ息をついて、その背中に続いた。

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「ユリアー!」
「わ! どうしました!?」
 そんなこんなで、私とアルさんは北限の村のさらに向こう、北の最果て、オルムがすべての叡智を残した遺跡の最奥、シーカー達の研究室のドアをばーんと開けて飛び込んだ。
「単刀直入に」
 研究室の中にいたハーフエルフの研究者、ユリアさんに向かい、アルさんはぶっちゃける。
「賢者の雫を持ち出したいとしたら、それは可能か」
「理由とかさ、こう、説明とかさ……」
 呟くけれど、まぁ、そんなものはね、なくてもね、お互い、関係なかったりする。質問、そして回答。
「無理です」
 単刀直入だなぁ……
「やっぱり、無理かな?」
 一応、続けて聞いてみた。
 こくり、ひとつユリアさんは頷いて、
「はい。無理ですね。雫は、ここにあるミニ魔力の塔の力で雫の状態を保っています。マナの供給が切れてしまえば、雫は消えてしまいます」
「なるほど、やはりそうなるか」
 予想通りの答えだったようで、アルさんは顎に手を当て、「ふーむ」と唸った。
「というよりですね、突然何事ですか? 賢者の雫を持ち出したいのですか?」
 ユリアさんは古文書の解読をしていたのだろうか。机の上の古びた本をパタンと閉じて、部屋の隅に置かれた木箱の方へとそれを戻しに向かった。「この木箱は分類が終わったので、誰か所定のエリアに持っていってもらえますか?」「僕がやりましょう」ホムンクルスさん……なじんでるなぁ。
 その背中へ、
「おう、仮にあれが持ち出せるなら、試したい事があるんだ」
 と、アルさん。ユリアさんははっと振り向いて、
「まさか──オルムに会って、賢者の石を錬成する術を見つけたとか!?」
「まさかの!」
 勢い、返すが、
「そういう訳ではない」
 この人に任せると話が進まないので、私は一歩歩み出て、言った。「あ、通ります。ちょっとすみません」ホムンクルスさん……緊張感……「ええっと」
「なくもないけど……」
 私は言った。
「オルムの聖地に行ってね、そこでオルムの古き巫女に会ったんだけど、その巫女達が賢者の石を創るなら、哲学者の卵を持って来いと言っていて──」
「哲学者の卵?」
 ユリアさんはこちらに近づきながら続けた。
「混沌すらも飲み込む、賢者の石を錬成するための器の事ですか? なるほど……確かにそれがあれば、雫を閉じ込めて持ち出す事も可能でしょうが……」
「あー、やっぱりネリの言ってたように、その手段で移動するんだ」
 アルさんはわかった風に呟いている。
「で、ナンムの島で賢者の石を錬成しようとか、そういう話の流れなんだろうな……」
「ああ、あそこ、マナがすごく濃そうだったしね。たまご石があれば、あそこのマナを取り込んで……とか、できそう」
「できるんですか!?」
 興奮気味にユリアさん。
「うむ」
 アルさん。
「いやしかし、諸事情により、哲学者の卵は手に入らない事が確定しているのだ」
 水を差す。
「しかもこれは世界の摂理とか、そういう類いのものなので、我々にはどうしようもない。で、そこで哲学者の卵なしに雫を移動する術はないかと、そういう事を聞いているのだ、ユリア」
「私が言うのもなんだけど、すごい無茶な事聞いているよね」
「しょーがねーだろー」
「いや、アルさんが何を言っているのか、私にはさっぱりなんですが」
 と、前置きをして、ユリアさんは聞いた。
「ともかく、雫を持ち出して、その、オルムの聖地的な場所? に移動したいんですか? 賢者の石を錬成できるかもしれないから?」
「ちょっと違う」
 ふんと鼻を鳴らし、アルさんは言った。
「その島に雫を持って行ったとして、おそらくはイベントフラグが立っていないので何も起こらないだろう。我々に残された最後の手段は、世界の摂理を超え、世界がそうせざるを得なくなるほどの公理にまで、一気に手を伸ばす事、ただそれだけなのだ」
「なんか、壮大な事をいってる風だけど、適当言ってるだけだよね」
「しょーがねーだろー」
 ひどい話だよ……「あ、すみません、後ろ通りますね」ホムンクルスさん、戻ってきた。「あ、ホムさん、こっちの木箱もお願いします」「了解しました」「おい、ユリア、話聞けよ」

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