studio Odyssey



スタジオ日誌

日誌的なもの

 海から吹き付ける、氷を含んだ冷たい風。
 厚い雲に覆われた、北の大地のその向こう。
 灰色の空が覆う冷え切った草原の中に、その巨石群遺跡はあった。
「ストーンヘンジより、圧倒的に大スケールだな!」
 巨石の一つに上ったアルさんが、草原にいくつもいくつも点在する環状列石を見下ろしながら、うれしそうに声を上げていた。
「これがあれか、魔力の塔の原型っていう、それなのか!?」
 届く声に、巨石の下から私は、
「らしいけど……なんかそれっぽいもの、あった!?」
 風に負けないよう、声を張り上げ、聞く。
「ない!」
「ねぇのかよ!」
 海から吹き付ける風に、パサパサばさばさになった髪を押さえつけ、私はちょっとげんなりと言い放った。北限の村からここまで歩いて丸一日。やっとの事でたどり着いたというのに、何もねぇとは。
「とりあえず、門石のおける所をさっさと探すかね」
 と、アルさんはひょいと飛び降りてくる。
「えーと……取りあえず、中心っぽい所かな?」
「その辺にぽいってやって、発動しないの?」
 半眼で聞くが、まぁ、答えはわかっているよ。
「すりゃあ楽なんだがなぁ……まあ、建前的には遺跡はマナが安定してないから、おける場所が限られるんだとか、そう言うことらしいが……」
 はいはい。解っていますよ。所定の場所でないと発動しないんですよね。はいはい。と、遺跡の中心方向へ向かって歩き出すアルさんに続く私。
「ってか、置ける場所を探すのも一苦労だし……しかも毎回毎回、鉱石魔神が出てくるじゃん?」
 肩をすくめつつ、意見。
 アルさんは振り向きもせずに返す。
「まあ、そりゃあ、実際にはそういうイベント的なモンなんだから、仕方ねぇだろ」
「うーん……」
 何が仕方ないのか、全く納得できない。が、まぁ、仕方ないと言われるならば、仕方あるまい。納得はできないが。
「お、割と近くにあった。ラッキー」
 と、アルさんは割と大きめの環状列石のひとつに駆け寄っていく。私には他の列石群との違いが全く判らないが、アルさんには判るらしい。曰く、違いのわかる男。ってか、「いや、カーソルあんじゃん」との事らしいのだが、私には何も見えませんが何か?
「はい、構えてー」
 片手で持つのには少々大きい感じの門石を手に、アルさん。
 私はすらりと剣を抜く。
「何がでるか、賭けでもしようか?」
「鉱石魔神」
「いや、もうちょっと絞ろうよ。四足? 二足?」
「流石にまた多足はねぇだろう。二足」
「じゃあ私、四足」
「何賭ける?」
「こう、北の地方回るなら、私、もうちょっといい防寒具が欲しいんだよね」
「んじゃ、俺も防寒用のマントが欲しい」
「んじゃそれで」
「置くぜー」
 話がまとまったところで、アルさんは門石を遺跡の祭壇にことんと置いた。
 石は、わずかに強く輝いたかと思うと、その光を纏うように静かに落ち着き始め──ごばーん! と、背後で巨石が砕け散る音がした。
 剣を手に、振り向く。
 果たしてそこにいたのは──芋虫のような体に鳥のような羽の生えた、見たこともない何かであった。
「おい! 足がねーぞ!?」
「いや、芋虫なら多足! 私のが近いから、私の勝ち!」
「ずるくねえ!?」
 私たちは今、世界中の遺跡を巡り、先史時代のアルケミストの痕跡と──賢者の石を探していた。

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