studio Odyssey



スタジオ日誌

日誌的なもの

 森に面した、小さな村、パルベ。
 その小さな村の、小さな酒場に、私たちはいた。
「いやいや、だからちげーよ」
 ダガーさんが、私の手元を覗き込みながら言う。そうは言ってもだな……
「えっと……だから、北が上で……」
「上下じゃなくて、コンパスで見ろ。ちげーだろ」
 んんんー?
「日常生活で、コンパス使って地図を見ることなんて、まあ、まずないご時世ですしねぇ」
 がぶがぶ、エールを飲みながらのレイシュさん。その台詞の通り、私は今、地図とコンパスに向かって、うんうんと唸っている。
「地図の読めない女」
 ぼそっと言ったアルさんを、キッと睨んでやる。こいつ……
「アルさん読めるなら、アルさんがやってくれればいいじゃないですか」
 言ってみた。
「俺は地図くらい読めるが、そもそも、ここにあるから、見る必要もない」
 何故か頭の右上の空間を指差すアルさん。いやいやいや、何もねーわ、そこには。
「まあ、王家の道がある大森林は、ミニマップが出ないんで、地図がいるんですけどね」
「そもそも、その地図、どこまで精度高いの?」
 ぐびぐび、レイさんとアルさんは、会話をしながら、ぐびぐび。
「そこは不思議ファンタジーなので、大分、精度は高いようですよ? まあ、ぶっちゃけ、森の中を突っ切る最短ルートでなくても、北に行って海に出たら、西に向かうのでもたどり着けるんですけどね。西の塔は」
「それだと、発掘隊のなんちゃらクエができないんだろ?」
「報酬、HQのスチール武器ですよ? 普通にやってれば、まあ、いいものですけど、すでに12Kミスリルじゃないですか」
「俺の武器! 俺、まだ、ノーマルスチール!」
「知りませんね、ネリさんに言ってください」
「ネリ!」
 と、アルさんはテーブルのネリさんに突然振り向き、声を上げた。が、しばらくネリさんは反応せず──
「はっ!? あ、すみません。ルーターが一瞬死にました。サブに切り替わったようです。で、なんか言いましたか? 貧乏人」
「聞こえてんじゃねーか!」
「ほらほら、だからあれですよ。ロングソードにランタンシールド装備で、懐かしのナイトをやりましょうよ、ナイト。私が試練の塔で手に入れた装備一式を、差し上げますよ?」
「ナイト、タンクだろ?」
「いいじゃないですか、タンク」
「タンク、フルパーティで二人もいれば良くね? レイシュと、チロルさん」
「ナチュラルにチロルさんを頭数に入れましたね……」
「フレンド登録もしたしな!」
「哀れ、チロルさん……」
 ぽそり、つぶやいた私を、
「いいからオメーは、地図に線を引け!」
 ダガーさんが、ぺちっと叩いた。
 もー、地図なんて読めないよー。

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