2023.10.28
※このあとがきは、勇者ちゃんの最終回を書き上げ後に書いたもので、未公開のままにしていたものを、あえて半年経ったあとに掲載したものです。
あのですねー、Twitterをですね、やっているんですね。2015年の2月からだったかな? なので、Twitterの方が、このあとがきよりも先にいろいろ呟いちゃっているんですけど、あれは流れてしまうので、あとがきにもちゃんと書いておくんですけどね。
※このあとがきは、勇者ちゃんの最終回を書き上げ後に書いたもので、未公開のままにしていたものを、あえて半年経ったあとに掲載したものです。
あのですねー、Twitterをですね、やっているんですね。2015年の2月からだったかな? なので、Twitterの方が、このあとがきよりも先にいろいろ呟いちゃっているんですけど、あれは流れてしまうので、あとがきにもちゃんと書いておくんですけどね。
セントラルキャビティの最奥。
魔力の塔の中心を一番下まで降りたところには、淡く光る不思議な文様が描かれている。
生きている魔力の塔の蒼い光の中で、私はうっすらと目を開けた。
ええっと──どういう状況だったっけな?
覚醒はしたものの、一旦目を閉じ、状況を整理する。
あの後、「で、このお父様を我々はどうしたらよいのだ?」などと言うアルさんに、「しりませんがな」と異口同音に返したレイさん、ネリさん。「とりあえず、パーティには入れないでしょうね」「NPCとして作られていませんから、そもそもステータスがありません」「これはお帰りいただくしか~」と、最終的にはエルさんの提案によって私の鍵石を渡し、父にはルーフローラへと戻ってもらったと記憶している。「親子の再会なのに、なんもナシでいいのか?」「いや、お互い、何を話したらいいのかわかんないし……」「いろんな意味で深い台詞だな」「主に貴方の所為ですが?」
そして気を取り直し、私達はセントラルキャビティを下へ下へと降りていったのだが──その後、最奥にたどり着いた辺りで、何故か私は強い眠気に襲われてしまったのだった。
そして──記憶がない。
「おや、アルさん、早いですね」
と、レイさんの声が聞こえてきた。
「総員、待避ー!」
最前線で鉱石魔神の猛攻を押さえていたレイさんが、振り向きざまに叫ぶ。
「もー! 無理ー!」
きびすを返し、走り出すニケちゃん。
「おやおや、まあまあ」
と、エルさんはステップを踏みつつ後退。それに続くダガーさん、ネリさんは「こりゃやべぇ」「戦略的転進ですね」と、すたこらさっさ。
「殿、務めます! レイさん先に!」
戦旗槍を大きく振り抜き、聖騎士チロルさんが殿に立って叫ぶ。と、
「くっ! チロルさんが殿だと、あとは任せた! と言って逃げ出しにくい!」
「私ならいいというのですかー!」
はいはい、いつものいつもの。
「だがしかし!」
我が相棒、アルさんこと、アルベルト・ミラルスは言った。
「総員、待避ー!」
無数の、数百という単位に違いないという鉱石魔神の大群に背を向け、私たちはあの要塞遺跡、バリトゥーヤの円形広場から、脱兎のごとく逃げだしたのであった。
分厚い鉄の扉が、鈍い音と共に開かれる。
その音に、私は深い眠りの底から世界に引き戻され、覚醒した。
扉の向こう、暗い通路の向こうから差し込んでくる光が私の頬に熱を与え、意識をはっきりとさせていく。
ここは──
目を細め、私はその向こうを見た。
影が言う。帽子のつばに手をかけて。
「どうも」
そこにいたのは大魔道士──補佐見習い候補──のネリさんだった。ネリさんは帽子に手をかけたまま私に向かって、
「お久しぶりです」
なんて言って、声をかけた。
「……どういうこと?」
聞きつつ、私はゆっくりと立ち上がった。そのついでに状況を確認しようと周りを見回すと、ここはどうやら牢獄のようだった。簡素なベッドと机と椅子が一組。部屋の隅に壺。マジか。
「状況がわからない」
言いつつ、扉の方へと進んでいく。
「でしょうね」
などと言いつつ、ネリさんは道を空けた。扉の向こうは石造りの薄暗い一本道で、ここはどこかの地下だろうか。その狭く暗い通路を照らすのは、ネリさんについて来ていた二人の兵士らしき人が手にしていた大きなランタンと、通路に等間隔に置かれた蝋燭の灯りだけだった。
「どうぞ」
と、ネリさんに剣を差し出されて気づく。腰に剣がない。どころか、服が、質素な貫頭衣を腰紐で結んだだけの、大分みすぼらしい格好じゃないか。一体何があったのだ?
ハテナハテナで、とりあえず剣を受け取り右手に持つ。
そして、私は聞いた。
「さっぱり訳がわからないのだけど?」
「おっと、左手は使わないでください、まあ、多分使えませんけど」
「どういうこと?」
首を傾げつつ、手のひらを上に向けた左手に意識を集中すると、ぱちぱちと赤い光が少し弾けて──けれど、そこに私の石は姿を現さなかった。
「あれ?」
「それも含め、ご説明いたしますので、どうぞ」
そう言って、ネリさんは私を促した。
ああ……なんとなく、想像がついた。
「なんかしたね? この世界の神様たちが。私に」
「そういう言い方をしないでください。マジで」
それは、後から聞いた話だ。
突然目の前に現れたパーティリーダーのクエスト受注選択画面に、バンガローのリビングにいたみんなが驚きに目を丸くしていた中で、エルさんただ一人だけが、「だから言ったじゃないですか~」なんて笑っていたと。
配信を見ていたアカーシャさんからのメッセに、何事か解らずリビングに慌てて戻ってきたチロルさんに、「ああ、チロルさん。お邪魔してます」などといつものように笑って、そして戻った私とアルさんに、
「男を見せましたね~」
なんて言って笑って、
「何その、高校生の告白イベントみたいな感想」
などと、ニケちゃんにイジられたりとかなんとか。
その何かは私たちに気づくと、ゆっくりと振り向き、眼球のない眼窩を私たちに向けた。
冥府、135階。
その階層に唯一存在する神殿の最奥に──それはいた。
冥府の女王。
アーオイルが錬金術から生み出した、古き神のなれの果て。
かろうじて人の身体を保っているそれが動くと、ぼろぼろと蛆の湧いた肉が辺りに落ち、腐臭がぞわぞわと足下を流れてきた。
「ひでぇモンだな……」
剣を構えた私の隣、アルさんが呟く。
「出来損ないの賢者の石に死すらも奪われ、神にもなれず、ただただ冥府に蠢くもの……」
「引導を渡してやるのが、せめてもの情け」
答え、レイさんは構える。
そして──
眼前、私たちに振り向いたそれが、冥府を震わす悲鳴のような咆哮をあげた。声に、頭がぼこぼこと内側から沸騰するように弾け、雷を纏った黒いヒトガタの何かがもぞりと姿を現す。続いて弾けた胸から、腹から、足の間から両手、両足と──計八体のおぞましいヒトガタが次々と姿を現し──顔に当たる部分の半分以上を占める口のような穴の奥から、怨嗟の声を轟かせた。
「いくぞ!」
剣を振るい、アルさんは叫んだ。
下の世界、カラニアウラの昼は薄暗く、空は常に厚い雲に覆われていた。
荒涼とした大地に転々と存在するオルムの遺跡には、寄り添うようにオルムの子孫たちがほそぼそと暮らしていたが、その数はごくわずかで、古きオルムの作り出した鉱石魔神の方が多いくらいであった。
静かに滅び行く世界、アウラ。
私たちはオルムの古き言葉に従い、その世界の遺跡を辿りながら、アーオイルの聖地、ルルスを目指していた。
空を飛べば──というのは最もな話なのだが、アウラの空は聖地ルルスを中心に、巨人との戦いの際に構築された魔力の壁によって覆われていて、その空を自由に飛ぶ事はかなわなかった。
アーオイルが賢者の石の欠片を再び賢者の石に結合し、輝かせるためには、この澱んだマナの停滞する大地ではそれなりの時間が必要だろうというのが、ナルフローレの見解だった。どれほどの期間が必要となるかはわからないとの事であったが、私たちとナルフローレの聖騎士達は、いくつかのグループに分かれ、いくつかのルートで聖地ルルスを目指していた。
「代わり映えのしない世界だな」
台地の上から、アルさんは広大な荒れ果てた世界を見下ろし、呟く。
「静かに滅び行く世界……だって」
私は隣に立ち、それに返した。
「なんでこんな風になっちゃったんだろうね