2019.08.30
それからまた、数日。
配達のお仕事をやったり、研究室に顔を出したり、いつの間にか聖堂城の立ち番に顔を覚えられたりして、何日後かの、満月の夜。
こっそり、私たちは研究室を抜け出した。
研究室前の海は、満ち潮のせいもあって、強い風に白波をたてていた。
「一雨来そうだな」
呟き、アルさんは空を仰ぐ。流れる厚い雲に、月は見えない。
「まあ、隠密活動にはもってこいか」
「風が強いから、多少の足音も聞こえなさそうね」
ま、念のため足音には注意しつつ、聖堂城の螺旋階段を上って行く。揺れるランタンの落とす影は、私とアルさん、二人のものだけだ。他のみんなは、さすがにこんな真夜中にまで、付き合いはしないらしい。
だいぶん登ったところで、向こうに小さな灯りが見えた。目を凝らすと、灯りは私たちを呼んでいるかのように、ゆらゆらと揺れていた。近づくと、トーカチを手にしたチビエルちゃんだった。
「二人だけ?」
薄い寝間着姿のチビエルちゃんが、首を傾げつつ聞く。
「おう。ってか、このイベント、どうもパーティー組んでても、参加できない系の奴っぽいんだけどな」
ハテナと首を傾げるチビエルちゃんだったが、
「ま、リヴァエルも、あんまりたくさんの人がいると疲れてしまうって言っていたし、ちょうどいいわ」
言い、私たちを促す。
「ここから先、聖堂に入るのに、いったん西のテラスにでるから……今日は風が強いみたいだし、気をつけてね」
「テラスから身廊に入るのか? まんまだな」
チビエルちゃんに続くアルさんの呟きを耳にしながら、私も階段を上がって西のテラスに出た。テラスに出ると、びょうと強い風が吹き付けてきて、髪や服の襟袖を、ばたばたと激しくはためかせてきた。凄い風。眼下に広がる広大な海は、闇に沈んで、時折立つ白波にうねっている。
「こっちよ」
テラスに出てすぐ右手、聖堂の入り口だろう、不思議に白く輝く大きな扉があった。チビエルちゃんはそこに手をかざすと、何かを小さく口にして光を消し、ゆっくりとそれを引き開けた。
「やろう」
アルさんが変わり、ドアを開ける。
その向こうには、まっすぐに東へと伸びる身廊があって、最奥の後陣に当たる場所には、一体の竜の石像が安置されていた。