studio Odyssey



スタジオ日誌

日誌的なもの

 恐るべき邪神の使徒たちが、世界を再生させんがため、邪神の眷族たちを次々と召喚し始め、世界中の人々に恐怖を与え始めていた。

 邪神の使徒たちの目的は、その恐怖の力を集め、偉大なる邪神を顕現させ、世界に再生を、人に終焉をもたらすことであった。

 これをよしとせんとする各国の王たちは、邪神に対抗するため、各国の主神の眷族たる勇者を召喚し、邪教の撲滅へと乗り出した。

 この物語は、そうしてこの世界に召喚された、勇者たちの物語である。

 

「勇者さま!北の森にある村が、邪神の眷族におそわれたと!」

 と、私はその部屋のドアを勢いよく開けた。

 ばーん!と響いた音に、ベッドで惰眠をむさぼっていた勇者さまがびくう!と飛びあかり、落ちた。ベッドから。

 いや、今、すごい音がしたぞ? 大丈夫か? まあ、曲がりなりにも、勇者さまだし、大丈夫だろうとは思われるが......

「......く、首が......し、死ぬ......」

 変な方向に曲がってる!?

 大丈夫じゃ、なかった!

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2015.03.16

スケッチ

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しゃちょ
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 1999年。

 春と呼ぶにはまだ早い、三月のその日。東京湾を中心に、小隕石魔法の破片が降り注いだ。そのテロ事件は、同年七月に起こったWoW(War on Warlock)の起こりとして、今も人々に、痛烈な映像と共に記憶されている。

 真昼の青い空を割って、数十分にもわたり降り注ぎ続けた隕石片は、西は横浜、東は木更津までの、およそ40キロ圏内に降り注ぎ、記録上、魔法による、最初で最大の被害をもたらした。

 死者、行方不明者は1683名。負傷者は3000名以上と発表されているその事件の発生地は、今なお残る魔力の残滓によって、人の住むことのできない、帰還困難区域に指定されている。

 私は今日、その地に、ふたりの魔法使いと共に、取材に訪れていた。

 廃屋と呼ぶには綺麗すぎる高等学校の校舎を写真におさめながら、私は同行している上級魔導師に聞いた。

「未だ、人の住めない場所とされていますが、ここに人が再び住めるようになるには、あとどれくらいかかるのでしょうか」

 問いかけに、年の頃は、当時、この高等学校に通っていた生徒たちとさして変わらない程度に見える、少女が答えた。

「随分と下がりはしましたが、未だマナ濃度は、一ヶ月もここにいれば、人体に悪影響を及ぼすレベルです」

 言い、少女は左手に持っていた自分の背丈程もある細長い銀色の杖を軽く振るった。空間に、なにやら不思議な文字が浮かび上がり、

「今日は、陽もある午後なので、マナ濃度は、被侵食率で、毎時0.07といったところです」

 その数値がどれ程危険なものか、私は知識としては知っていたが、具体的にどれ程の問題があるのかは、正直、わからなかった。

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2015.03.07

スケッチ

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しゃちょ
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 カチャカチャ爪が鳴る。うざい。切りたい。でも爪切りないし、他人の爪切りをかりるのなんか、やだし。

 かちゃかちゃ伸びた爪が、キーボードにぶつかる度にちいさく鳴る。こうなると、もうだめ。気になって仕方ない。普段は意識しないのに、なんか、こう、爪の先がもわっとした感じになって、伸びたって言っても、キャバクラのおねーちゃん程じゃないはずなのに、それがなんか、すっごい違和感。気になる。

 手のひら側から、爪を見てみた。

 五ミリ...ないか。まあ、長いよね。しっかし、きったないな!爪の間に、煙草の葉がついてんじゃん!

「手相でも見てんの?」

 なんでよ。まあ、見えなくもないだろうけど。

 同僚が、視線をモニターに戻しながら続けた。

「なんなら、視てあげようか、手相。実は、ちょっとかじったことあるんだ」

 と、なんだその突然のカミングアウト。どうでもいいわ。

「何線?」

「最寄り駅は京王線」

「私、半蔵門線」

「仕事しろ」

「してる」

 話しかけて来たのは、そっちだけどな!いいけど。

 かちゃかちゃキーボードを叩いて、企画書を組み上げていく。まあ、ほとんど完成していて、語尾だの、言い回しだのを直しているだけだから、頭はあんまりつかわないんだけど...爪が気になる。

 最近は仕事ばっかで、自分ケアを怠ってるからなあ。これが終わったら、海外にでもバカンスに行きたい。ああ、南の島に行きたい。グアムとかサイパン、ハワイとか。海外、行ったことないけど。パスポート、持ってないし。

 腰を伸ばすようにして、ため息と一緒にキーボードから手を離した同僚が、ちらりとこちらを見て、言った。

「でも、伸びたねぇ」

「え?マジで?わかんの?」

「えー?のばしてんでしょ?」

 ねーよ。

「髪」

 そっちかよ!

「別に。切りにいくのがめんどくさいだけ」

「給料日、来週だしね」

 いや、そこまで金なくねーし。

「爪」

 と、短く言う。

 ん、と見られる。

「そう?」

 と、自分の爪と見比べて小首をかしげている。あまかったわー、なんだその爪。毎日やすりでもかけてんのか。

「邪魔じゃね?」

「えー?そう?」

 慣れか。慣れなのか。あー、話題にしたら、気になるもわもわ、再燃だわ。

「てか、せっかく伸びたんなら、ケアすれば良くない?」

「...めんどくさい」

「髪伸ばしてますー、爪のケア始めましたー、あとはダイエット開始ーで、寿退社準備中ですかー」

「ああ、体重はおちたな、うん。あと、さっき、パスポート取ろうと思ってた」

「私を置いていかないで」

「仕事しろ」

「ってことがあった」

 ぱちんぱちんと、爪切りで爪を切りながら、テーブルの上のスマフォに向かって言う。

 風呂上がり。伸びた髪はタオルの中。二の腕は若さ的な意味ではなくて、ぷるんぷるん。一キロニキロで、人は変わりません。

「パスポートはとっとけよ」

 電話の向こう側、彼氏が言う。

「めんどくさいー」

 応えて、爪の先をやすりでごりごり。ふっと、息を吹き掛けて、あ、やべ、ティッシュの上の爪が飛びそう。まあ、でも、耐えた。足の親指の爪って、いっぺんに繋げて切りたくなるよね。

「しらんがな」

 つまんで、眺めて、おおーってやるじゃん。やらないか、私だけか。やるんだけど。

「今週、大丈夫?」

「んー、平気」

 眺めてた足の爪をティッシュにくるんで、ポーイ。外した。まあ、いいか。

 スマフォを手にして、ごろんと寝そべる。

 左手を伸ばして、ライトにかざしてみた。

 とりあえず、甘皮処理して、ネイルオイルくらいぬってみたけど、

「めんどくさいなー」

「え?なに?」

「ひとりごとー」

 あー、定期代の申請しなきゃだわ。最寄り駅も変わるんだった。

2015.03.05

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しゃちょ
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 shit!!

 終電逃した。くそが。あれだ、エスカレーターで立ち塞がってたあのおっさんがわりーんだ。くそが。死ね、死ね、皆死んじまえ。

 まあ、グチったところで、何が変わるわけでもねーのはわかってんだけどさ。愚痴も出るわ。

 大きく息を吸って、吐く。ため息。

 朝方は、風に春の香りがした。具体的にいうと、最近鼻をむずむずさせる例のアレ。花粉。なのに、時計の短針が天辺を回った今は、ちょいと寒い。具体的にいうと、先週の俺の懐ぐらい。アレ、給料日前の月末。

 なんだかなー、なんだろうなー、例えにもキレがねーよ、俺。たとえですらねーよ。

 仕方なしに、俺はタクシー乗り場へと向かった。

 駅までと告げて、タクシーに身を滑りこませる。愛想の良くない運転手が、マスクの奥でもごもごと応える。花粉症かね、風邪かね、まあ、話を広げるつもりもないけども。

 スマフォをいじって、時間を潰す。無言の車内。信号待ちに停車した、メーター類の明かりだけの薄暗い車内に、軽いエンジン音だけが、かたかたと響いている。

 大きく息を吸って、吐く。ため息。多分、意味はない。

 窓の外、国道の景色が流れていく。

 なんかなー、なんだろうなー。

 たとえばた。

 このタクシーが、事故ったとする。いや、運ちゃんはたまったもんじゃないだろうが、俺はどうだろう。

 うん、たまったもんじゃないな。

 たとえばた。

 このタクシーか、気づいたら異世界に迷い混んでたとする。運ちゃんはたまったもんじゃないだろうが、俺はどうだろう。不思議タクシー。やべえ、ファンタジー。もしかして、ホラー。

 夜霧がさーっと流れてきて、気がつくと知らない道。あれ?と思って、運ちゃんに声をかける。すると、ゆるゆるとタクシーは停車して、「お客さん...」振り向く運ちゃんがマスクをとって、にたあと笑う口が、耳まで裂けていて──

「お客さん、駅、つきましたよ」

 はっと気づいて、手で口許を拭う。

 やべ、寝てたし。ってか、駅、私鉄側じゃん。JR側だったんだが...いや、まあ、文句は言うまい。

 支払いをすませ、そそくさと降りようとしたとき、「あ、お客さん...」

 運ちゃんが、俺の方に身を乗り出すようにして言いながら、マスクに手をかけた。

「ケータイ、忘れてますよ」

 うん、スマフォね。スマフォ。さっきまで俺が手にしていたスマフォ。それが、シートに転がっていた。

「あ、すみません、ありがとうございます」

 さっとそれを拾って、俺は逃げるようにタクシーを離れた。やべぇやべぇ。アホみたいな妄想が、運ちゃんディスが。まあ、ロックかかってるけどな。

 かたかたかたと軽いエンジン音を残して、タクシーが国道に戻っていく。離れて行く俺。コンビニ寄って、メシ買って、帰って寝るか。

 マスクを取った運ちゃんの口許は、ちょいとばっかし乾燥してて、すこしばっかり割れていた。多分アレ。風邪ひいた時になるアレ。

 帰ったら、イソジンでうがいもしねーとな、と、俺は軽く息をついた。

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