studio Odyssey



スタジオ日誌

日誌的なもの

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 38歳。無職。童貞。
 童貞は生まれた時からだが、無職は先週からだ。
 激務に次ぐ激務で、とうとう壊れた。身も、心も、なにもかも。
 俺の、16年の社会人生活は、一体何だったんだろうか。何の意味もなかったんだろうか。何も残さなかったんだろうか。いや、金だけは残ったな、使う暇もなかったしな。でも、ただそれだけ。
 一人、夕陽の差し込む、10年近く住んでいる2Kの自室、ベッドの上で、俺は天井を見上げていた。
 動けない。
 動きたくない。
 人生を、振り返りたくもない。
 かと言って、自殺を選択したくもない。事故にでも巻き込まれて死ぬのなら、万々歳だ。突然ガス爆発でもおきないものだろうか。強盗が押し込んできて、いっそ俺を刺し殺してくれないだろうか。
 いっそ──
 口をついて、出た。
「こんな世界、滅んでしまわないだろうか」


「いいね、いいよ、オマエ」
 ケケケ、と笑いながら、それは言った。
 天井に張り付くようにして、バスケットボール大のちんちくりんな生き物がいた。ケケケと笑いながら、それは言った。
「いいね、いいよ、オマエ。そのやる気にあふれた、やる気のなさ。くっだらねー、クソみてーな負の感情」
「なんだ、お前」
「なんでもいいと思っているくせに、どうでもいい事を聞くな。なんでもいいだろ」
 まあ、正直、どうでもいい。
 それは続けた。
「ついにアタマがイカれたと思っているな? いいじゃないか、イカれたついでだ、大将」
 そしてそれは、言った。
「お前に力を与えてやる。この世界を、滅ぼすために──俺と契約して、魔法少女を殺してよ?」

続きを読む <魔法少女ものなんて、もうやれない>

2016.12.16

ロボットもの

Written by
しゃちょ
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読み物
雑記
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「ひとつだけ確認しておく」
 俺は、それに尋ねた。
「彼女がパイロットになったとしても、それは、後から変更可能なんだな?」
 それは答えた。
「問題ない」
「わかった」
 俺は頷き、返した。
「俺がお前にインストールされてやる。それで、お前は動けるんだな?」
「ちょっと! やめてよ!」
 泣きそうになりながら、彼女が言った。
「嫌だよ! なんで私がそんな──!」
「彼は死ぬ。そして、彼の選択を君が否定すれば、彼も、君も、この星の生命体の全てもが、命を失う事になる」
 それは答えた。
「彼の死は、回避できない」
 非情だ。まあ、この出血なら、そう長くは保たないんだろうなという事くらい、俺にもわかる。あと、何分だ? 二分くらいか?
 それは続けた。
「君は、彼の選択を、認めるだけでいい。私のシステムの一部が破損して動かない現状は、彼の意識を上書きインストールすることによって、修復される。私の自我は彼に上書きされ、消えるが、同時に、彼は私のアーカイブへのフルアクセスを得る。彼なら、私をうまく扱えるだろう。大丈夫だ。先にも言ったが、君は、彼の選択を認めるだけでよい」
「なんで──やだよ! 重すぎるよ!」
「君の選択で、彼の死は、多くの命を救うことになる」
「やだよ! なんで私が──!!」
「頼むよ」
 俺は笑って、言った。
「せめて、最後くらい、カッコつけさせてくれよ。嘘でも──彼女、守らせてくれよ」


 その日、俺たちの街に、怪獣が降ってきた。
 それと戦う、ロボットのような、人工生命体と共に。
 俺が、彼女に告白されて、初めてのデートの日に──槍じゃなくて、怪獣と、巨大ロボットが降ってきた。

続きを読む <ロボットもの>

 デーンデーンデーンデデデーンデデデーン。
 な、感じの頭部が降って来る──のか否か。はてさて、メガネの暴走に、ラガンはいかにして立ち向かうのか。
 そんなこんなで、
「とおう!」
 トーちんは多目的教室の割れた窓から、グラウンドに飛び降りた。
「ここ、三階!?」
「まあ、トーちんなら問題ないよ」
 どしゃーんと、大地をひび割り、トーちんはグラウンドに着地する。重量感が意味不明だが、気にはしない。
 そしてもうもうと舞う土煙の中、トーちんは空を見た。
「あれかっ!?」
 上空に、何かの黒体。
「ビッグメガネ!!」
「ふ......はーっはっは! そうだ、トーちん! あれこそが、ビッグメガネ様! 世界を、トーちんを、俺様の腕の中に永遠に閉じ込めるために、今、ここに、降臨なさるるのだぁぁぁ!」
 いつの間にやらグラウンドに降りてきていた加賀が、ずびしとトーちんを指差して言う。
「アホなことをしやがって──!」
 いや、お前ら今まで、それ以外のことをしていたか?
「あれを止めろ、加賀!」
「厶ぅぅぅリだね、トーちん! 王たる俺が望んだのだ。俺を殺すでもしない限り、あれは止まらんぞ! って、エエええぇぇー!!」
 問答無用で殴りかかったぞ、こいつ。
「......避けるな」
「避けるわ!」
「愛しているなら、殴られろ。そして、死ね!」
「バイオレンスラヴ!?」
 再び殴りかかるトーちんをかわす加賀。
「ちぃっ!」
「マジだな、トーちん! それくらい、俺を愛してくれていれば!」
「お断りだ!」
「ビッグメガネ様、どんどん近づいてるよー」
 多目的教室の窓から身を乗り出して叫ぶ遊人に、何だ何だと他のクラスの連中も顔を出す。あ、ボブ先生......
「トーちん! なんとかしなさいよ!」
 霰が言った。
「あの空から落ちてくるビッグメガネ様が地球に衝突したら、マジで人類滅亡じゃ済まされないわよ!」
 説明に、窓から顔を出していた生徒たちも空を見て、「おおー」と唸った。霰、説明ありがとう。でもみんな、ああ、あいつら、またなんかやってるって感じだけどな。日常日常。超日常。日々是人類滅亡。
「加賀!」
 かわしまくる加賀にしびれを切らし、トーちんは指を突き付けて言った。
「お前がその気なら、俺にも考えがあるぞ!」
「ほう......」
 メガネくいっで、返す。
「俺様の気持ちに、ついに気づいたのか、トーちん......」
 うん、多分、話、噛み合ってない。
「ラガンの力を──」
 トーちんの裸眼が、ぎらりと輝く!
「使わざるをえんなあ!」
「それを待っていたのだ、トーちんんん!」
 トーちん、踏み出す!
 パンチ!
 加賀、迎え打つ!
 パンチ!
 トーちんの輝く右目、加賀の輝くメガネ、そして二人の輝く拳がぶつかり合い、衝撃波が大地を駆け抜けた!
「ラストは、王道バトルものだー!!」
 窓から身を乗り出す観客を煽るのは遊人だ。
「あの......人類滅亡の危機って......」
 霰の呟きは、誰の耳にも届かない。

続きを読む <メガネvsラガン5>

 爆発はオチだけではなく、しょっばなっていうのもあるんだぞ。覚えておけ。前回のひきってやつだ。と言う訳で──
 大爆発!
 弾け飛ぶ教室のドアから、
「くっ、ぶちきれてやがる......! こんの変態メガネが!!」
 廊下に転がり出てくるトーちん。
「全部トーちんのせいじゃない!」
 遊人。そして、
「ちょっと! なんであたしまで巻き込まれてるわけ!?」
 霰の三人。
 はてさて。
「トーちんンンんん!!」
 三人を追うように、禍々しいオーラを纏った加賀が、廊下に姿を現す。
「トーちんを殺して、抱きしめて頬ずりして、一週間くらい一緒にごろごろしてから、オレも死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
 反射するメガネのレンズに、その瞳の奥は見えない。だが、確実に言えることは、変態。狂気。キモい。
 加賀のメガネに、パワーがリチャージされる。
「また撃ってくる気か!? 遊人! 盾だ!」
「はい!」
「へっ......?」
「「妙技! 身代わり入道雲!」」
「あたしィー!?」
 爆発。
 場面転換にも使える。有能。

続きを読む <メガネvsラガン4>

 さて、いい加減、いろんなことは置いておいて、垂れ流される日常を、あるがままに受け止めて生きることこそが、唯一の救いと、みなさまも感じ始めている事だろう。
 そんなこんなで、三話。私はこんな日常、全く望まない。
 はてさて、トーちんは教室へと入る。
 一限のチャイムが鳴ろうかという三分前──
「完璧だ。俺の記録は、今日も守られた」
 ご満悦、だがしかし──!
「あら、遅かったわね。出席をとるわよ、席につきなさい。トーちん」
「やはりでくさったか、貴様ぁ!」
 後ろにいた遊人を引き寄せ、首筋チョップ! 目からビーム! 流れるようにスムーズ!
 放たれた先にいた相手は、
「ひゃわぁぁぁぁぁ! ちょっと! やめなさい! 先生に向かってなんてことするの!」
 とか言いつつ、かわす。ビームをかわす女、誰であろう、
「入道雲 霰! お前、前回出番ほとんど無かったから、今回だろうとは思っていたが、いきなりか!」
「僕なんて、前回、死んだとか言われてたのに、ナチュラルにトーちんの後ろにいた事にされてたよ......」
「シーン変わったしな」
「ボクはシーン一回の、打てば響く便利アイテム扱いだったのか......」
 ともあれ、
「入道雲、てめぇ、まったく予想通りの行動をとりやがって! しかも先生だと! ふざけるのも大概にしろ! お前は生徒だろうが! 担任のボブはどうした、ボブは!!」
 前回の予告に出てたボブ、担任だったんだ......
「ボブ先生は、今日から産休をとりました。よって、今日からこのクラスは、独立風紀委員会の管轄になりました」
 さんきゅう?
「まて、ボブは男だ」
 だよな。
「さ、最近は殿方も、産休を......」
「とらねぇよ」
「えー? 取るかもよ? ジェンダーフリーってやつだよ」
 お前が言うと、深いな、男の娘。

続きを読む <メガネvsラガン3>

 『メガネ』とか、『ラガン』とか、もう意味がわからないとか言っても始まらないので、始めよう。大体のことは、脇に置いておいて大丈夫だ。人生なんてそんなもん。人間なんてららーら。
「ふん」
 と、校門前。メガネを上げて鼻を鳴らすのは変態。固有名詞。
「独立風紀委員会の会長ともあろう者が、あのようなビームを食らうとは、情けない」
 くいくい眼鏡を上げているが、加賀よ......
「遊人ちゃんに両足を複雑骨折されて、しゃくとり虫みたいにへこへこ這ってるあんたに、言われたくないわよ」
 そう、地面を這い回るその姿は、哀れというか、通り越して、ぶっちゃけキモい。
「む。いやこれはな、この骨折には、トーちんの愛がこもってるから、あえて治したくないからであって、あえて治していないだけだぞ」
 変態は日本語も怪しいらしい。
「まあ、俺がその気になれば、こんなもの、ちちんぷいぷいで......」
「あら、そうなの。なら、私はトーちんを追っかけるから」
 入道雲 霰には、前回食らったビームの跡形はすでにない。シーン変わっているし、前回の話だしな。
「あの男、今日こそはとっちめて、一限に遅刻させてやるわ。そうすれば、変なタイトルも追わずに、ちゃんと登校するようになるでしょう」
 なるかなあ......何かと理由をつけて、遅刻しそうだが。
「私は行くわ。変態」
 さっそうと、校舎に──
「ちょっと待て、霰!」
「あんたに名前で呼ばれる筋合いはねー!」
 向かわず、シャクトリムシにストンプ!
「ぐぎゃぁぁ! 愛がぁ! トーちんと俺との愛がぁ!! そろそろ俺の足が、タコの足のようにー!」
 なんか色々なものと一緒に砕けたとか、うまいことを言ったつもりか。背骨ごと行ってしまえ。
「で、なによ?」
「眼鏡会長に足蹴にされつつ、見下されるという画も、俺ならばこそ、栄えるな」
 再ストンプ。
 さすが変態。栄えるな。
「なにか言いたかったんでしょ?
早くしなさい。トーちんを間に合わせるなり、遅刻させるなり、出来なくなっちゃうじゃない」
 うん、会長、ちょっとセリフの意味がわからない。何もしなくても、いずれかになる事を言ってる。どっちでもいい。ってか、正直、どっちでもいい。
「ん。実はな」
 と、加賀はぼそぼそと告げた。実は仲いいんだろう、お前ら。
「ふぅん」
 と、霰も目を細め、
「いいじゃない。その案。わかったわ、受けましょう。じゃあ、私は先にいくわね」
「待て。あら......じゃなかった。入道雲」
「何よ? 時間がないんでしょ?」
「てめぇが踏み折りやがった俺様の足を、キレイに完治させてからいけ」
 ストンプ!

続きを読む <メガネvsラガン2>

 この物語は、フィクションである。
 いやいや、何を。当たり前だ。こんなものが、フィクションでないなどと、何をトチ狂った事を──だ。こんな馬鹿げた日常が、あっていいわけがなかろうよ。
 いや、だが待てよ。もしかしたら、君の知らない、もう一つの日常という可能性も──ないな。ない。絶対にだ。
 この世界には、外宇宙からやってきた謎の寄生生命体『メガネ』と、それに抵抗する力を持つ『ラガン』の力を扱う、少年少女たちが暮らしている。ほら、もうわけがわからないだろう? 大丈夫だ。私にも、訳がわからない。
 なんだそれはと、問うても無駄だ。そうなのだ。この世界では、それが事実なのだ。世界が生まれたその瞬間から、それは決まっていたのだ。『メガネ』と『ラガン』が、血で血を洗う、激動の日々の物語が、この世界にはあると、決まっていたのだ。
 誰が決めたかと? いやいや、聞くな。それはこの世界の創造主たちが決めたことなのだ。おそらくは、そう、悪ノリとか、その場の勢いとか、そう言ったもので。
 ひとつだけ断っておくと、君たちに彼らの日常を垣間見せようと思い立った私も、その創造主たるものの一部だ。だが、重ねていうが、ひとつ、断っておく。
 私は、もう少し、まともな世界を創ろうとしたのだ。こう、なんというかな、青春系ライトノベルのような、な。だがな、それは叶わなかったのだ。何故って?
 そうさな──

 神々がアレ過ぎたんじゃないかな?

続きを読む <メガネvsラガン1>

2015.06.14

 しこたま飲んだ記憶だけがある。ひどい頭痛がする。

 俺はのそのそと起き上がると、トイレに向かった。ワンルームの俺の部屋には、サークルの連中らが同じようにつぶれている。しこたま飲んだからなあ。まあ、つぶれもする。

 昼になろうかという時間帯。いい加減、他の奴等も目を覚ますか。トイレの前にいたタナカを蹴飛ばし、俺はトイレにはいった。そして──戦慄した。

「なんじゃこりゃあぁぁァ!?」

 事件はトイレで起きていた!

 流れてないウンコ。大量。

 俺は振り向く──犯人は──この中にいる!?

 

続きを読む <ついに、あのうんこが>

2015.06.04

「しゃーないやろ、そう言う契約になってんねんから」

 胡散臭い関西弁でしゃべるおっさんを前に、ヤマダは困惑して目をぐるぐるさせている。基本的に、アホのヤマダの方が、こんなアホな話には順応しやすいかと思ったが、そうでもないようだ。

 俺は、

「要約すると」

 言った。

「一万年前、シュメール人が別世界であなた方、神と魔簇の双方に約束した契約の通りに、千年に一度の神魔対戦とやらの代理戦争を、俺と、このヤマダとでしろと、そう言う事?」

「せやで! あんちゃん、理解が早くてたすかるわ!」

 サムズアップすんな。

 

「本当は、契約者当人の、シュメール人たちにやらせるべきなんですけどー」

 と、うさんくさいおっさんの隣に座っていた女性が、間延びした感じで言う。ちなみにこの人は女神なんちゃらと言うそうで、神側の実行委員長だと言って名刺をくれた。今も、その名刺はテーブルの上に置いてある。ぶっとんでる。

「ところが、前回の神魔対戦の後、シュメール人の文明でひと悶着ありましてー、今や、滅亡へのカウントダウン中ーって感じで、対戦とか、やってる暇ないーって感じでして」

「それ、対戦が原因なんですか?」

「いや、単なる自分たちで起こした戦争が原因やで。対戦は、まあ......遠因言われたら、せやなー。ないとはいえんなー。文明、数百年すすませるくらいのインパクトあるしなー、程度や」

 遠因足り得んのかよ......

「でも、安心してください! 千年前の教訓を生かして、今回からルールもレギュレーションも、実行委員会でしっかりと制定しました!」

「せや。これはもう、れっきとした、スポーツと言えるレベルやで!」

「あたし、運動得意じゃないんですけど......」

 ヤマダ、お前は喋るな。

 

続きを読む <勇者と魔王の出来レース>

 恐るべき邪神の使徒たちが、世界を再生させんがため、邪神の眷族たちを次々と召喚し始め、世界中の人々に恐怖を与え始めていた。

 邪神の使徒たちの目的は、その恐怖の力を集め、偉大なる邪神を顕現させ、世界に再生を、人に終焉をもたらすことであった。

 これをよしとせんとする各国の王たちは、邪神に対抗するため、各国の主神の眷族たる勇者を召喚し、邪教の撲滅へと乗り出した。

 この物語は、そうしてこの世界に召喚された、勇者たちの物語である。

 

「勇者さま!北の森にある村が、邪神の眷族におそわれたと!」

 と、私はその部屋のドアを勢いよく開けた。

 ばーん!と響いた音に、ベッドで惰眠をむさぼっていた勇者さまがびくう!と飛びあかり、落ちた。ベッドから。

 いや、今、すごい音がしたぞ? 大丈夫か? まあ、曲がりなりにも、勇者さまだし、大丈夫だろうとは思われるが......

「......く、首が......し、死ぬ......」

 変な方向に曲がってる!?

 大丈夫じゃ、なかった!

続きを読む <ヒーローズってのもありかもしれん>

2015.03.16

スケッチ

Written by
しゃちょ
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読み物
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 1999年。

 春と呼ぶにはまだ早い、三月のその日。東京湾を中心に、小隕石魔法の破片が降り注いだ。そのテロ事件は、同年七月に起こったWoW(War on Warlock)の起こりとして、今も人々に、痛烈な映像と共に記憶されている。

 真昼の青い空を割って、数十分にもわたり降り注ぎ続けた隕石片は、西は横浜、東は木更津までの、およそ40キロ圏内に降り注ぎ、記録上、魔法による、最初で最大の被害をもたらした。

 死者、行方不明者は1683名。負傷者は3000名以上と発表されているその事件の発生地は、今なお残る魔力の残滓によって、人の住むことのできない、帰還困難区域に指定されている。

 私は今日、その地に、ふたりの魔法使いと共に、取材に訪れていた。

 廃屋と呼ぶには綺麗すぎる高等学校の校舎を写真におさめながら、私は同行している上級魔導師に聞いた。

「未だ、人の住めない場所とされていますが、ここに人が再び住めるようになるには、あとどれくらいかかるのでしょうか」

 問いかけに、年の頃は、当時、この高等学校に通っていた生徒たちとさして変わらない程度に見える、少女が答えた。

「随分と下がりはしましたが、未だマナ濃度は、一ヶ月もここにいれば、人体に悪影響を及ぼすレベルです」

 言い、少女は左手に持っていた自分の背丈程もある細長い銀色の杖を軽く振るった。空間に、なにやら不思議な文字が浮かび上がり、

「今日は、陽もある午後なので、マナ濃度は、被侵食率で、毎時0.07といったところです」

 その数値がどれ程危険なものか、私は知識としては知っていたが、具体的にどれ程の問題があるのかは、正直、わからなかった。

続きを読む <スケッチ>

2015.03.07

スケッチ

Written by
しゃちょ
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 カチャカチャ爪が鳴る。うざい。切りたい。でも爪切りないし、他人の爪切りをかりるのなんか、やだし。

 かちゃかちゃ伸びた爪が、キーボードにぶつかる度にちいさく鳴る。こうなると、もうだめ。気になって仕方ない。普段は意識しないのに、なんか、こう、爪の先がもわっとした感じになって、伸びたって言っても、キャバクラのおねーちゃん程じゃないはずなのに、それがなんか、すっごい違和感。気になる。

 手のひら側から、爪を見てみた。

 五ミリ...ないか。まあ、長いよね。しっかし、きったないな!爪の間に、煙草の葉がついてんじゃん!

「手相でも見てんの?」

 なんでよ。まあ、見えなくもないだろうけど。

 同僚が、視線をモニターに戻しながら続けた。

「なんなら、視てあげようか、手相。実は、ちょっとかじったことあるんだ」

 と、なんだその突然のカミングアウト。どうでもいいわ。

「何線?」

「最寄り駅は京王線」

「私、半蔵門線」

「仕事しろ」

「してる」

 話しかけて来たのは、そっちだけどな!いいけど。

 かちゃかちゃキーボードを叩いて、企画書を組み上げていく。まあ、ほとんど完成していて、語尾だの、言い回しだのを直しているだけだから、頭はあんまりつかわないんだけど...爪が気になる。

 最近は仕事ばっかで、自分ケアを怠ってるからなあ。これが終わったら、海外にでもバカンスに行きたい。ああ、南の島に行きたい。グアムとかサイパン、ハワイとか。海外、行ったことないけど。パスポート、持ってないし。

 腰を伸ばすようにして、ため息と一緒にキーボードから手を離した同僚が、ちらりとこちらを見て、言った。

「でも、伸びたねぇ」

「え?マジで?わかんの?」

「えー?のばしてんでしょ?」

 ねーよ。

「髪」

 そっちかよ!

「別に。切りにいくのがめんどくさいだけ」

「給料日、来週だしね」

 いや、そこまで金なくねーし。

「爪」

 と、短く言う。

 ん、と見られる。

「そう?」

 と、自分の爪と見比べて小首をかしげている。あまかったわー、なんだその爪。毎日やすりでもかけてんのか。

「邪魔じゃね?」

「えー?そう?」

 慣れか。慣れなのか。あー、話題にしたら、気になるもわもわ、再燃だわ。

「てか、せっかく伸びたんなら、ケアすれば良くない?」

「...めんどくさい」

「髪伸ばしてますー、爪のケア始めましたー、あとはダイエット開始ーで、寿退社準備中ですかー」

「ああ、体重はおちたな、うん。あと、さっき、パスポート取ろうと思ってた」

「私を置いていかないで」

「仕事しろ」

「ってことがあった」

 ぱちんぱちんと、爪切りで爪を切りながら、テーブルの上のスマフォに向かって言う。

 風呂上がり。伸びた髪はタオルの中。二の腕は若さ的な意味ではなくて、ぷるんぷるん。一キロニキロで、人は変わりません。

「パスポートはとっとけよ」

 電話の向こう側、彼氏が言う。

「めんどくさいー」

 応えて、爪の先をやすりでごりごり。ふっと、息を吹き掛けて、あ、やべ、ティッシュの上の爪が飛びそう。まあ、でも、耐えた。足の親指の爪って、いっぺんに繋げて切りたくなるよね。

「しらんがな」

 つまんで、眺めて、おおーってやるじゃん。やらないか、私だけか。やるんだけど。

「今週、大丈夫?」

「んー、平気」

 眺めてた足の爪をティッシュにくるんで、ポーイ。外した。まあ、いいか。

 スマフォを手にして、ごろんと寝そべる。

 左手を伸ばして、ライトにかざしてみた。

 とりあえず、甘皮処理して、ネイルオイルくらいぬってみたけど、

「めんどくさいなー」

「え?なに?」

「ひとりごとー」

 あー、定期代の申請しなきゃだわ。最寄り駅も変わるんだった。

2015.03.05

スケッチ

Written by
しゃちょ
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 shit!!

 終電逃した。くそが。あれだ、エスカレーターで立ち塞がってたあのおっさんがわりーんだ。くそが。死ね、死ね、皆死んじまえ。

 まあ、グチったところで、何が変わるわけでもねーのはわかってんだけどさ。愚痴も出るわ。

 大きく息を吸って、吐く。ため息。

 朝方は、風に春の香りがした。具体的にいうと、最近鼻をむずむずさせる例のアレ。花粉。なのに、時計の短針が天辺を回った今は、ちょいと寒い。具体的にいうと、先週の俺の懐ぐらい。アレ、給料日前の月末。

 なんだかなー、なんだろうなー、例えにもキレがねーよ、俺。たとえですらねーよ。

 仕方なしに、俺はタクシー乗り場へと向かった。

 駅までと告げて、タクシーに身を滑りこませる。愛想の良くない運転手が、マスクの奥でもごもごと応える。花粉症かね、風邪かね、まあ、話を広げるつもりもないけども。

 スマフォをいじって、時間を潰す。無言の車内。信号待ちに停車した、メーター類の明かりだけの薄暗い車内に、軽いエンジン音だけが、かたかたと響いている。

 大きく息を吸って、吐く。ため息。多分、意味はない。

 窓の外、国道の景色が流れていく。

 なんかなー、なんだろうなー。

 たとえばた。

 このタクシーが、事故ったとする。いや、運ちゃんはたまったもんじゃないだろうが、俺はどうだろう。

 うん、たまったもんじゃないな。

 たとえばた。

 このタクシーか、気づいたら異世界に迷い混んでたとする。運ちゃんはたまったもんじゃないだろうが、俺はどうだろう。不思議タクシー。やべえ、ファンタジー。もしかして、ホラー。

 夜霧がさーっと流れてきて、気がつくと知らない道。あれ?と思って、運ちゃんに声をかける。すると、ゆるゆるとタクシーは停車して、「お客さん...」振り向く運ちゃんがマスクをとって、にたあと笑う口が、耳まで裂けていて──

「お客さん、駅、つきましたよ」

 はっと気づいて、手で口許を拭う。

 やべ、寝てたし。ってか、駅、私鉄側じゃん。JR側だったんだが...いや、まあ、文句は言うまい。

 支払いをすませ、そそくさと降りようとしたとき、「あ、お客さん...」

 運ちゃんが、俺の方に身を乗り出すようにして言いながら、マスクに手をかけた。

「ケータイ、忘れてますよ」

 うん、スマフォね。スマフォ。さっきまで俺が手にしていたスマフォ。それが、シートに転がっていた。

「あ、すみません、ありがとうございます」

 さっとそれを拾って、俺は逃げるようにタクシーを離れた。やべぇやべぇ。アホみたいな妄想が、運ちゃんディスが。まあ、ロックかかってるけどな。

 かたかたかたと軽いエンジン音を残して、タクシーが国道に戻っていく。離れて行く俺。コンビニ寄って、メシ買って、帰って寝るか。

 マスクを取った運ちゃんの口許は、ちょいとばっかし乾燥してて、すこしばっかり割れていた。多分アレ。風邪ひいた時になるアレ。

 帰ったら、イソジンでうがいもしねーとな、と、俺は軽く息をついた。