studio Odyssey




スタジオ日誌

日誌的なもの

2015.12.11

メガネvsラガン5

Written by
しゃちょ
Category
読み物
Tags

 デーンデーンデーンデデデーンデデデーン。
 な、感じの頭部が降って来る──のか否か。はてさて、メガネの暴走に、ラガンはいかにして立ち向かうのか。
 そんなこんなで、
「とおう!」
 トーちんは多目的教室の割れた窓から、グラウンドに飛び降りた。
「ここ、三階!?」
「まあ、トーちんなら問題ないよ」
 どしゃーんと、大地をひび割り、トーちんはグラウンドに着地する。重量感が意味不明だが、気にはしない。
 そしてもうもうと舞う土煙の中、トーちんは空を見た。
「あれかっ!?」
 上空に、何かの黒体。
「ビッグメガネ!!」
「ふ......はーっはっは! そうだ、トーちん! あれこそが、ビッグメガネ様! 世界を、トーちんを、俺様の腕の中に永遠に閉じ込めるために、今、ここに、降臨なさるるのだぁぁぁ!」
 いつの間にやらグラウンドに降りてきていた加賀が、ずびしとトーちんを指差して言う。
「アホなことをしやがって──!」
 いや、お前ら今まで、それ以外のことをしていたか?
「あれを止めろ、加賀!」
「厶ぅぅぅリだね、トーちん! 王たる俺が望んだのだ。俺を殺すでもしない限り、あれは止まらんぞ! って、エエええぇぇー!!」
 問答無用で殴りかかったぞ、こいつ。
「......避けるな」
「避けるわ!」
「愛しているなら、殴られろ。そして、死ね!」
「バイオレンスラヴ!?」
 再び殴りかかるトーちんをかわす加賀。
「ちぃっ!」
「マジだな、トーちん! それくらい、俺を愛してくれていれば!」
「お断りだ!」
「ビッグメガネ様、どんどん近づいてるよー」
 多目的教室の窓から身を乗り出して叫ぶ遊人に、何だ何だと他のクラスの連中も顔を出す。あ、ボブ先生......
「トーちん! なんとかしなさいよ!」
 霰が言った。
「あの空から落ちてくるビッグメガネ様が地球に衝突したら、マジで人類滅亡じゃ済まされないわよ!」
 説明に、窓から顔を出していた生徒たちも空を見て、「おおー」と唸った。霰、説明ありがとう。でもみんな、ああ、あいつら、またなんかやってるって感じだけどな。日常日常。超日常。日々是人類滅亡。
「加賀!」
 かわしまくる加賀にしびれを切らし、トーちんは指を突き付けて言った。
「お前がその気なら、俺にも考えがあるぞ!」
「ほう......」
 メガネくいっで、返す。
「俺様の気持ちに、ついに気づいたのか、トーちん......」
 うん、多分、話、噛み合ってない。
「ラガンの力を──」
 トーちんの裸眼が、ぎらりと輝く!
「使わざるをえんなあ!」
「それを待っていたのだ、トーちんんん!」
 トーちん、踏み出す!
 パンチ!
 加賀、迎え打つ!
 パンチ!
 トーちんの輝く右目、加賀の輝くメガネ、そして二人の輝く拳がぶつかり合い、衝撃波が大地を駆け抜けた!
「ラストは、王道バトルものだー!!」
 窓から身を乗り出す観客を煽るのは遊人だ。
「あの......人類滅亡の危機って......」
 霰の呟きは、誰の耳にも届かない。

「Emergency, Emergency」
 ぴががっと、無線音。
「上空に出現した謎の飛行物体について、報告せよ」
「こちら、ネオパンSS......」
 ある意味、元ネタの元ネタすら、若い子には意味不明な事を言いつつ、青い空を行く自衛隊機のパイロットは、
「な......何だあれは......?」
 驚きの声を上げた。
 ビッグメガネ様?
 いいや、違うね。
「逃げるな、加賀ァ!」
「流石はトーちんだ! メガネの力で重力すら操る王たる俺についてくるとは!」
「どうした、ネオパン!?」
「上空三千フィートに人がいる!?」
「何を馬鹿な......」
 馬鹿ですみません。馬鹿は、普通に空も飛ぶんです。
 とは言え、加賀は自称、重力をあやっているらしいので、比較的自由に動いているのだが──まあ、非常識は置いといて──トーちんはと言うと、実は彼は飛んでいるとは言っても、
「遊人!」
「ボクは、足場じゃないんだけどなぁ」
 ぼやきつつ、トーちんの足をバレーのレシーブの要領で受け止める遊人。
「レシーブ!」
 無論、反作用で遊人は吹っ飛んでいくわけだが、そこは、目からビームで器用に中和して、空域に戻ってくる。万能だな、目からビーム。
「霰っ!」
「は、はい!」
 今度はその先にいた霰が、トーちんをトス。あ、一応メガネは飛べるみたいです。
「従順になりおってー! 入道雲ー!」
「うるさい! うるさい!! うるさーい!!」
 赤い。
「お前の相手は、俺だ! 加賀!」
「いいぞ、トーちん! それでこそだ!」
「トーちんあたぁぁっく!」
「加賀ぶろぉぉぁっく!」
 空中で拳を付き合わせる男二人。台詞はともかく、まさにメガネ vs ラガン。
 最終回は、バトルもののままで行く気か?


「ふう、流石に、ちょっと非常識すぎるか」
 トーちんは額の汗を拭いつつ、ぼやく。お前の台詞とは思えない。
「はー、もう、目がしぱしぱするよ」
「あんたたち、一応、非常識だって認識あったのね」
「失敬だな」
 まあ、そんな会話をしているのは、空を行く戦闘機の翼上な訳なので、非常識には変わりない。
「ベース! 応答願います! 人が! 人が翼の上に!?」
「落ち着け、ネオパン!」
「そうだぞ、取り敢えず、旋回しつつ飛んでくれ」
「そろそろ、ビームも弾切れしそうだから、地上に送ってくれると嬉しいんだけど、運転手さん」
「ナチュラルにパイロットと会話すんな」
「ふふ、どうした、ラガンの末裔よ」
 と、加賀。
「飛べるのずりー」
「そうだーそうだー!」
「戦闘機の上で腕組みしてる、あんたらも大概だけどね」
 二人は飛べないからね。まあ、飛べるお前も、大概だがね。
 加賀を中心に、旋回する戦闘機。はて、どうしたものかという三人に、大きく手を広げ、加賀は言った。
「さあ! ビィィッグメガネ様の顕現を、そこで見ているが良い!」
 上空遥か彼方、黒点が輝いた。
「お......」
 と、トーちんが呟くと同時に、無数の光の矢が降り注ぐ。
「わあっ!?」
「きゃああぁ!」
「ぐっふう!」
「なんでお前まで被弾してんだよ!?」
 降り注いだ光の矢に、
「主翼被弾!」
「なにィ!?」
 戦闘機がバランスを崩す。
「トーちん、やばいわ! 墜ちる!?」
「トーちん! 加賀くんが!?」
「あのバカ、被弾したのか!?」
 気を失ったのか、加賀が自由落下している。
「いやいや、こっちも自由落下始めたから!」
 ばしゅんと、コックピットハッチが弾けるように開き、
「パイロットさん、逃げた!」
「オォォイ! まてまてまてー!!」
 いや、人間としては、当然の行動だから。お前らはメガネとかラガンとか、非人類的な何かかも知らんけど。
「遊人! なんとかしろ!」
「加賀くん?」
「いや、あれはどうでもいい」
「ですよねー」
「ちょ......ちょ......墜ちてる! 墜ちてるから!」
 言ってる間にも、落下する戦闘機。ぐんぐんと地面が近づいてくる。
「あのままだと、加賀くんも、グチャって、スプラッタ?」
「それで解決しねーかな、これ」
「ふ......」
 自由落下中の加賀が、上空遥か彼方の黒点に向かって、呟いた。
「それが、メガネの選択か......」
「ちょっとー! やめてよー! あたし、まだトーちんと手も繋いでないし、ちゅーもしてないのに、死ぬのー!?」
「霰ちゃん......」
「なんだ、怖いのか? ほれ、手くらい、繋いでやるから」
「え?」
 ぎゅ。
「えー!?」
 ばちーん!
「......なんで俺は、張り手されたんだ、遊人よ」
「何でだろうね、ちゅーすればよかったんじゃない?」
「そうじゃないでしょ!」
「しかし、あの加賀がこれに突っ込んでこない辺り、これは、かなりヤバいのでは?」
「判断基準そこ!? あたし、試金石!? トゥンクして損したわ!」
「これが......メガネの選択か......」
 加賀は呟いた。
「この世界を終わらせ、メガネもラガンもない、新世界を創造しようというのか......」
 それは、とても平和な世界ではなかろうか。
 しかし──
「ダメだ」
 落下する戦闘機の翼の上。
 トーちんは腕組みをして、告げる。
 その裸眼を、ぎらりと輝かせて。
「その世界では、俺の全遅刻無欠席の記録は、達成されない!」
「それ、まだ引っ張ってたんだ!?」
「遊人!」
「落下は、ボクの目からビームで押さえ込めば、グラウンドに軟着陸できるとは思うけど、ボク、それやったら、今日はもう、ただの一般人レベルになるよ?」
「霰!」
「え? なに? あたしに何を期待してるの? 加賀を回収しろとでも? 重力操作したって、アレが墜ちる速度を遅くさせるくらいしか、もう、力は残ってないわよ」
「それで良しだ」
「本気?」
「まあ、アレはアレでも、加賀だしな」
「幼馴染だしねー」
「そういう所だけ、あんたら、律儀ね......」
「惚れ直しちゃうー?」
「なんでよ!?」
「チャンスは一度だ! 行くぞ!!」
 その目が、ぎらりと輝く!
「や......やれってんなら、やるわよ!」
 翼の上、霰のメガネが陽光に輝く。見据える先には、加賀。
「重力制御!」
 ぐんぐんと落下する加賀の速度が、僅かに落ちた。
「お、重い......」
「ボクは、機首で待機するよ!」
 ひょいひょいと、遊人は戦闘機の機首へと向かう。自由落下中の戦闘機のコックピットハッチの前に陣取る遊人。
 ぐんぐんと落下する加賀、ぐんぐんと近づく戦闘機。さらにその先、遊人の裸眼に映る地面が、ぐんぐんぐんと近づいてくる。
 チャンスは一度と言ったトーちんは、翼の上で両手を広げた。
「加賀ァー!!」
 はっと、加賀が目を見張った。
「トーちん!?」
 ぐんぐんと近づく戦闘機と加賀。
「トーちん......そ......それは......!?」
 加賀は、近づく戦闘機の翼の上で手を広げるトーちんに向かって、
「それはァー!?」
 叫んだ。
「それは、俺の胸に飛び込んで来いってヤツですかァァァァァアア!?」
「こい!」
「トーちんんんんんん!!」
 腕を広げるトーちん。迎えるように、腕を広げる加賀。
 交錯する!
 ──メコォ......!
 入った。完璧だ。加賀の喉元に。絶対やると思った。自由落下の威力の乗った、強力な奴。めり込んだ。ラリアット。
「......な、なぜだ、トーちん......明らかに、そういうシーンではなかったろう?」
「すまん......つい......」
 そして加賀は、トーちんの腕の中で、息絶えた......
「霰ちゃん! 今だよ! 思いっきり、やっちゃって!」
「ごめん、遊人ちゃん!」
 加賀をそのメガネの力で減速させていた霰が、その役割を終え、最後の仕事を果たすべく、機首の遊人に向かって駆け出して行く。
「ボクの全てを!」
「ごめん!」
「トーちんとボクとの間柄に、恨み妬み嫉みとか、イロイロ込めていいから!」
「マジで死ねやぁぁぁあ!!」
 メガネを光らせ、霰は遊人の首筋に、フライングチョッピングライト!
 遊人の目から、強烈なビー厶が放たれた。


 もうもうと砂塵の舞うグラウンド。
 不時着した戦闘機は、あり得ない事に、無傷だ。
 遊人は何故か戦闘機の後方に吹っ飛んで伸びている。霰は前方に吹っ飛んで、生け垣に頭から突っ込んでいる。
 そして、トーちんと加賀は──
「加賀......」
「と、トーちん......」
 片膝をついたトーちんの腕の中で、細く息をしながら、加賀が答えた。
「俺は、もう、ダメだ......」
「加賀! 死ぬな!! くそう!!」
 いや、トドメ刺したの、お前だけどな。
 まあ、いい。
「トーちん、俺、ビッグメガネの声を、聞いたんだ......あれは、俺が......俺が間違ってた......」
 加賀は弱く続けた。
「加賀......」
「トーちん、世界を......頼む。あいつは、俺に、こう言ったんだ......」
 そして加賀は、最後に、言った。
「あいつは──『友達がいない王様が、『こんな世界滅んじゃえ!』と言う時に使う、究極の呪文で呼ばれて、世界滅ぼしに来たのに、テメーら、割と楽しそうじゃねーか。死ね!』──と!」
 生け垣から頭を引っこ抜いた霰が、そこからダッシュで、助走をつけて、サッカーのペナルティキックよろしく、加賀の頭をシュート! ナイスキック! グラウンドのゴールに、加賀GOAL!!
「......死んだな」
「あんたぁ! シリアスっぽいシーンだと思ったら、なんだその理由ー!」
「仕方あるまい」
 メガネを直しつつ、むくりと起き上がる加賀は、強い子グリコ。肉体的にも、精神的にも。
「つまりは、アレか、加賀」
 顔を引き締め、トーちんは言った。
「あいつも、実は仲間に入れて欲しい系か?」
「霰のようにな!」
「あたし!? ちょっと待て!」
「もう、みんな、素直じゃないんだからー」
 てくてくやってくる遊人。無傷。強いぞ男の娘。
「まあ、でも、ボク、もう普通の男の娘だから、さすがに何にもできないよ」
「さすがに、遊人の目からビームでも、あれには届かないか」
 見上げる空に、ビッグメガネ。
 太陽を覆い尽くして余りあるその顔から、無数の小型顔が湧き出ていた。
「なんか、湧いてるぞ」
「アレでも、二階建て4LDKくらいのサイズがある」
 トーちんと同じものを見つつ、加賀はメガネを上げる。
「千はいるな」
「無双ザコのくせに」
「いやいや、あれ、ここに襲いかかってきたら、一般生徒巻き込むわよ? 流石に、一般人は、死ぬでしょ?」
「ボブならいける!」
「いけるね!」
「どうするのよ、加賀。責任取りなさいよ。あたしも、もう力は使えないんだからね」
「軽く無視されたぞ、遊人」
「扱いなれて来ちゃったね、霰ちゃん。早くもマンネリかなぁ」
「責任か......」
 ふ......と、加賀は笑ってメガネを上げた。
「責任とって、トーちん、俺とケッコ──ウボァー!?」
 トーちんと霰の、ツインシュートだ。二点目。ブレないな、コイツも。
「遊人、何とかして、俺をビッグメガネのところまで運べないか?」
「一般人には無理だよー、あ、ヒコーキあるから、あれに乗って行くのはどうだろう?」
「なるほど、それなら行けそうだ」
「いやいや、グラウンドから離陸は無理でしょ。滑走距離が足りない」
「紙ヒコーキみたいに、投げればいいんんじゃない?」
「よし、それで行けるな。あとは、パイロットだけだな」
「わかった。トーちん、それは俺が、責任をとって引き受けた」
「よし、任せたぞ、加賀。総員、作戦開始だ!」
「まてまてまてまてまてー! なんかいろいろ、適当すぎるからー!」
「えー?」
 三人、面倒くさそうに顔を歪めた。いやいや、お前らね......いや、いいんだけど。もう、知ってるからね、みんな。
「滑走距離が足りないから、何だって?」
「紙ヒコーキみたいに投げる」
「誰が!? っていうか、飛ぶには、どんだけの速度がいるか、わかってんの!?」
「マッハあれば行けるだろ?」
「どこの世界に、戦闘機、紙ヒコーキみたいに投げて、マッハ超えさせられる奴がいるのよ!」
 トーちん、加賀、遊人を指差す。
「......」
「?」
「あんたさっき、一般人レベルの力しか出ないって言ってたよね?」
「え? みんな、それくらいできるんじゃないの?」
「できるかボケェ!?」 
「そうかなー、頑張れば、みんなもできるよー」
「そうだぞ、霰。何事も、やってやれない事はないんだ。諦めたら、そこで試合終了だと、白い悪魔も言っていたろ?」
「なぜ、あえてそっちの二つ名をチョイスする」
「あ、そうか。霰ちゃんも、何か、役割欲しいんだね?」
「なぜ、そうなる」
「ふ......そうだな、霰も、今や俺たちのなか──ぐふぅ!?」
「あんたに、名前で呼ばれる筋合いはない......」
「いいから、戦闘機乗れよ、加賀」
 ボディブローに背中を丸めていた加賀を、ぽいとトーちんはコックピットに投げ込んだ。
「動かせるか?」
「ふ......メガネの力で、なんとでもなる」
 万能だな、メガネ。
「はいはい、トーちんも乗ってー」
「翼でいいか?」
「どこでも」
「マッハで投げる予定じゃないの!?」
「カッコいいじゃん!」
「重要だね!」
「......いっそ、滅んでしまった方がいいんじゃないかしら、こんな世界」
 言って、霰は空を仰いだ。
 空に、無数の顔だけの群体が覆っている。教室の窓から顔を出していた生徒たちも、さすがにそろそろまずいと思い始めたのか、何だ何だと口にしている。
「霰」
 と、それをチラ見して、トーちんは言った。
「お前はここで、生徒たちを安心させてやってくれ」
「ど......どうやって?」
「俺たちが、世界を、救ってくるまで、ちょっと待ってろ──ってな」
 陽光の中、笑うトーちんとコックピットの加賀。そして遊人。
 ラストバトル前の、絵になるシーン──っぽいけど、諸悪の根源、お前らだから。
「トーちん......」
 だまされてるからー! 霰ー!
「わたし、頑張る!」
「任せたぞ!」
「メガネ&ラガンの名にかけて!」
 その設定、生きてたんだ!?
 校舎に向かって駆け出す霰。そのメガネが輝き、霰の衣装を変える! え? なんで? っていうか、どこからともなく、イントロ!?
「あたし、みんなのために、歌うわ!」
 水平ピースで、右目にキメ♪ メガネがキラッ☆
「......やりたかったのか、アレ」
「だろうな」
「ほんじゃ、いっくよー!」
 イントロに合わせ、遊人が走る!
「ちょま......ココロの準備が、加速度においつかない!?」
「聞いてください、デビュー曲、『ココロの準備が、加速度に追いつかない』」
「えー!?」
「そーれ、どっきゅーん!!」
 そして遊人は、戦闘機を投げた。文字通り、投げた。ソニックブームと共に。
 そしてそれは、ビッグメガネに向かって一直線に蒼い空を駆け上がって行った。
 一転、こちらステージ。
 殺傷能力は無論ないレーザービームがスモークを射抜き、生徒たちの手にはサイリウム。
「遊人くん!」
 呼ぶ霰に、遊人が振り向く。
「私達のステージよ!」
 霰がもう一つのマイクを投げた。
「霰ちゃん!」
 受け取り、駆け出す遊人の衣装は、すでにアイドル装備。会場のボルテージはマックスだ。ノリいいな、生徒。
 ステージに飛び乗った遊人が、霰と視線をかわし、言う。
「私達の歌──」
「あなたにも届け!」
 メガネ&ラガン、ファーストステージ、開幕!
「歌いながら、バトルだね!」
「ヤック・デカルチャー!」
 仲いいな、お前ら。


「おのれ──行くぞ、ビッグメガネ!」
 おのれ、が誰宛かはともかく、ビッグメガネとその小顔群体のひしめく空に、トーちんを乗せた加賀の操る戦闘機が突っ込んでいく。
「露払いは任せろ、トーちん! メガネ触手ミサイル、発射!!」
 数千の小顔群体に向け、数千のミサイルのようなものが放たれる! ようなもの──戦闘機に、そんなにたくさんの、触手みたいに追尾するミサイルがあるわけねーだろ。実態は、メガネビームだよ。ぐねぐね追尾するビームってのも、最早ビームですらない気もするが、気にすんな。
『おのれ、ラガン!』
「ビッグメガネ、喋った!?」
 いわゆる、毒電波風な意思疎通方式ではあったが、それは言った。
『数千、数億のはるか古より、我の前に立ちはだかり、そして幾度となく我が野望を打ち砕いてきた、ラガンの者共め! またも我の前に立ちはだかろうというのか!』
「俺のこの目が世界を映す限り、貴様らの自由にはさせん! よし、次回予告の台詞を言ってやったぜ!」
 どうでもいいわ! 読者も覚えてねーわ!
『メガネの反射に、焼かれて死ね!』
「何ッ!?」
 ビッグメガネのメガネが、強烈に輝き──
『なにい!?』
 光っただけだった。
「......あれ?」
 身構えていたトーちんは、ビッグメガネを見た。それは、額に冷や汗をダラダラとたらしながら、うろたえていた。
『我の光が、拡散しただと!? これは──この、加護の力は──ッ!?』
 ビッグメガネは地上を見て、そのメガネの奥の、目を見開く。あ、黒目とか無いです。ビッグメガネ様。
 ともかく、
『ば、馬鹿なぁぁー!?』
 それは地上を見て、言った。
『メガネとラガンの御子が、我の力を抑える、古の聖歌を歌っているだとぉぉ!?』
 絶賛ライブ中なのは、遊人と霰。ユニット名、メガネ&ラガン。
「まさか、あいつらの歌に、そんな力があったとは......」
 加賀、息をのむ。いやいや、誰も知らねーよ、そんな、今生えた設定。
『おのれ! メガネ&ラガン!』
 しかし、こうかは、ばつぐんだ!
「行くぞ、加賀!」
「突っ込むぞ、トーちん!」
『おのれ......ならば雌雄を決しようぞ! ラガンの末裔よ!』
「お前、女だったのか!?」
『違うわ、ボケェェェ!』
「だが、たとえお前が女であっても、俺はお前をぶちのめす!」
 トーちん、マジ外道。
「むしろ、俺様の恋路の障害になりうる奴は、すべて滅ぼす!」
 呼んだのお前、加賀。
 何にせよ、戦闘機はビッグメガネに迫る! その限界高度に達しようかという地点で、
「あとは任せろ、加賀!」
 トーちんは、戦闘機からジャンプした。ばっこーん! と響くソニックブーム。墜落する飛行機など、彼の視界には入らない! 見据える先は、成層圏の向こう、ビッグメガネ!
『決しようぞ!』
「望むところだ!!」
 宇宙の黒を背景に、トーちんの裸眼が、ぎらりと輝く!
「砕けて散れ......!」
 トーちんは大きく拳を引き絞り、そして──勢いよく突き出す!
「ファイナル・ブラストォォオ!!」
 それは格好良さげだけど、意味を調べてググっちゃダメなやつ!
 ともあれ──それはハデに砕け散った。


「あーいもあーいもー」
「遊人くん、そこまでパクっても、本編でも印象薄いから、誰も覚えてない......」


 そして、地球の平和は護られた!
 もともと、破滅の危機を呼んだ奴らの手によって!
「ふう、流石に、今日の登校はバードだったな」
 教室の席に付きつつ、トーちんはぼやく。
「おらー、席につけー」
 と、ガラガラとドアを空けつつ教壇に姿を現したのは一時限目の物理の先生だ。
「朝から、カロリー使いすぎだよ、早弁しようかなあ」
 トーちんの隣の席に座りつつ、遊人は弁当を出す。やる気だ、こいつ......
「そうだ、トーちん、さっき先生が当てると言っていたが、予習はしているのか?」
 トーちんの後ろの席に座りつつ、加賀。
「やべえ! 忘れてた!」
 読者も覚えてないから安心だ。
「加賀、今日の範囲教え......」
「おおっと! 教えてほしくば、トーちんは、俺の愛を──!」
「霰、教えろ」
「な、なんてあたし!?」
 遊人の前、トーちんの斜向かいに座りつつ、霰。
「お前、委員長メガネキャラだろ。秀才属性くらいつけとけよ。あと、遊人、マジで食い始めんな、昼メシどうすんだ?」
「もご?」
「べ、別に、教えてあげてもいいけど、世の中はギブアンドテイクっていってね......」
「わかった、あとで頭ぽんぽんしてやるから」
「え!?」
「ゆるさんぞ! 入道雲霰ー!」
「そうだよ! アイドルはそんなことしちゃ、ダメだよ!」
「食べながら叫ばないで! 飛んだ! 飛んだから!」
「アイドルは、早弁しねーよ」
「あー、メガネとラガンは、確認するまでもなく、いるな」
 と、出席簿を閉じつつ、物理の先生は言った。
「じゃあ、教科書の──」
 チャイムが鳴った。
「......」
 無言の教室に、響くチャイム。
 先生は開いた教科書を閉じた。
「はい、じゃあ、今日はここまで」
「アイドルだって、早弁するよー」
「ちょ、トーちん、頭ぽんぽんって......」
「ふ......一時間目が終わった以上、それは無効だなぁ、入道雲霰」
「なんだ、ぽんぽんしてほしいのか? ほれ、こい」
「い、行かないわよ!」
「ゆるさんぞー!」
「トーちん、どうしよう! お弁当が、いつの間にか空に! これは──!?」
「ゴルゴムの仕業」
「そうかー、ならしょうがないね」
「くらえ、入道雲霰!」
「教室でビーム撃つな!」
 この物語は、フィクションである。
 いやいや、何を。当たり前だ。こんなものが、フィクションでないなどと、何をトチ狂った事を──だ。こんな馬鹿げた日常が、あっていいわけがなかろうよ。
 いや、だが待てよ。もしかしたら、君の知らない、もう一つの日常という可能性も──
 いや、ないな。
「今日も平和だな」
 頬杖をついて、窓の外を眺めつつ、綺麗にまとめようとすんな、てめぇ。あと、ラストカットでちらっとフレーム横切ってくんじゃねーよ、ビッグメガネ様小顔群体の一匹。


トラックバックURL

http://blog.studio-odyssey.net/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/908


コメントする