studio Odyssey




スタジオ日誌

日誌的なもの

2015.11.20

メガネvsラガン2

Written by
しゃちょ
Category
読み物
Tags

 『メガネ』とか、『ラガン』とか、もう意味がわからないとか言っても始まらないので、始めよう。大体のことは、脇に置いておいて大丈夫だ。人生なんてそんなもん。人間なんてららーら。
「ふん」
 と、校門前。メガネを上げて鼻を鳴らすのは変態。固有名詞。
「独立風紀委員会の会長ともあろう者が、あのようなビームを食らうとは、情けない」
 くいくい眼鏡を上げているが、加賀よ......
「遊人ちゃんに両足を複雑骨折されて、しゃくとり虫みたいにへこへこ這ってるあんたに、言われたくないわよ」
 そう、地面を這い回るその姿は、哀れというか、通り越して、ぶっちゃけキモい。
「む。いやこれはな、この骨折には、トーちんの愛がこもってるから、あえて治したくないからであって、あえて治していないだけだぞ」
 変態は日本語も怪しいらしい。
「まあ、俺がその気になれば、こんなもの、ちちんぷいぷいで......」
「あら、そうなの。なら、私はトーちんを追っかけるから」
 入道雲 霰には、前回食らったビームの跡形はすでにない。シーン変わっているし、前回の話だしな。
「あの男、今日こそはとっちめて、一限に遅刻させてやるわ。そうすれば、変なタイトルも追わずに、ちゃんと登校するようになるでしょう」
 なるかなあ......何かと理由をつけて、遅刻しそうだが。
「私は行くわ。変態」
 さっそうと、校舎に──
「ちょっと待て、霰!」
「あんたに名前で呼ばれる筋合いはねー!」
 向かわず、シャクトリムシにストンプ!
「ぐぎゃぁぁ! 愛がぁ! トーちんと俺との愛がぁ!! そろそろ俺の足が、タコの足のようにー!」
 なんか色々なものと一緒に砕けたとか、うまいことを言ったつもりか。背骨ごと行ってしまえ。
「で、なによ?」
「眼鏡会長に足蹴にされつつ、見下されるという画も、俺ならばこそ、栄えるな」
 再ストンプ。
 さすが変態。栄えるな。
「なにか言いたかったんでしょ?
早くしなさい。トーちんを間に合わせるなり、遅刻させるなり、出来なくなっちゃうじゃない」
 うん、会長、ちょっとセリフの意味がわからない。何もしなくても、いずれかになる事を言ってる。どっちでもいい。ってか、正直、どっちでもいい。
「ん。実はな」
 と、加賀はぼそぼそと告げた。実は仲いいんだろう、お前ら。
「ふぅん」
 と、霰も目を細め、
「いいじゃない。その案。わかったわ、受けましょう。じゃあ、私は先にいくわね」
「待て。あら......じゃなかった。入道雲」
「何よ? 時間がないんでしょ?」
「てめぇが踏み折りやがった俺様の足を、キレイに完治させてからいけ」
 ストンプ!

 さて、場面は変わって、階段を一段一段、おじいちゃんのように昇っているのは、誰であろう、トーちん。遊人は律儀に登りきって、踊り場で待っている。
「ふう、階段つれーなー」
「明らかにわざとにしか見えないけど」
「心が踊り場に踊れない」
 意味がわからない。言い訳であることはよく伝わるが。
「走れば、ホームルームが終わる前に教室、つくよ?」
「そんなことをしたら、遅刻でなくなってしまうかもしれないじゃないか。偉大な記録が潰えるぞ」
「えー、偉大かなあ」
「お前だけいけば?」
「やー、走るのー? 僕、ビーム撃った後だから、若干疲れてるんだけどー」
「んなら、ちんたらいけば──」
 若干にじみ出た本音に、
「トーぉぉぉちんー!!」
 踊り場に躍り出た変態の声が重なった。
「ここはあ!」
 くねくね。
「通さん!!」
 ビシぃ!
 擬音で表現してみたが、変態さは伝わったと思う。さすが加賀。
「トーちん! ここは通さん! 貴様の全遅刻無欠席の野望も、これまでた!」
「く......加賀か! 貴様、死んだはずでは!?」
 死んでたとしたら、殺したの、お前らだよね?
 あ、ホームルール終了のチャイムだ。がらがらと教室のドアが開いて、学級担任たちが出てきた。ついでに、一限が始まるまでの時間、トイレに行ったり、僅かな時間で別クラスの友達のところに行ったりというような生徒たちが廊下に出てきた。
 そしてこいつらを見て、「ああ」と言う目をする。
「おはよー」
 クラスメイトにナチュラルに挨拶する遊人。
 一転、
「く、貴様! 俺を愛しているのなら、道を空けろ!」
「愛しているとも......」
 くいっと眼鏡を上げつつ、
「海よりも深く、宇宙よりも広い心で! だが、男には、どうしても戦わねばならんときと言うものが在るのだ!」
「それが今だと言うのか!」
「そうだ!」
 熱いやり取りに聞こえるが、内容はアレ。
 で、
「あー、お前ら、ちょうど良かった。お前ら、今日当てるからな。二人共、一限遅刻すんなよ」
 一限の物理担任の先生が、職員室に戻りがてら、言って、階段を降りていく。
「うす」
「ふん、すでに予習済みだ」
 日常って素晴らしい。
「貴様! 俺を愛しているのなら、道を空けろ! 俺は、前人未到の、全遅刻無欠席を達成するんだ!」
 あ、そこからやり直すんだ。
「愛故に! 愛のために! 決してさせんぞ、トーちん!! 男には、決して引けぬ時があるのだ!!」
「それが今だと言うのか!?」
「その通りだ、トーちん!!」
 そこへ、今度は遊人が割り込む。
「思うんだけど......加賀君は、トーちんをどうしたいの? 記録の妨害がしたいだけなの?」
「うるさいぞ、黙れ。女男」
「な......なんでそういうこと言うの!! もー!」
 と、遊人は加賀を睨んで──かっと、目からビームを放つ。あ、それ、自分の意志でも撃てるんだ。目からビーム。
 で、ビームで校舎の一部が吹き飛んだわけだが、まあ、彼らにとっては些細な事だろう。他の生徒達も、白目で見てるし。
「やったか?」
「手応えがない!?」
「ビームなのに、手応えあるのか!?」
 いや、しらんがな。
「加賀くん、どこに!?」
「ふ......お前の攻撃は、すでに読んでいるぞ、神子遊人。同じ技では、俺様を倒すことなどできん!」
 ただし、明日には忘れる。
「後ろ!? いつの間に!? め、目からビー......!」
「甘いわ、神子遊人! 貴様の目からビームなど、その目をこうして手で覆ってしまえば、打てぬ事など、百も承知!」
「あ! 加賀君、ずるい!」
「うるさい、口もふさいでくれるわ!」
「むぐぅ!」
「仲いいな、お前ら」
 全くだな。青春だな。違うか。違うな。
「待て待て待て、トーちん、アンド、ナレーション。確認しておこう。俺にとって、こいつは憎むべき敵! トーちんと俺との間を引き裂こうとする、悪魔!」
「むぅーむぅー」
 背後から女子セーラー娘を羽交い締めにして、口を押さえ込む変態。画になる......か?
 ともあれ、
「ま、まぁ......なんでもいいや。俺は行くぞ。遊人、一限、サボりになるなよ」
 お前も大概だな。
「まままま待てい! トーちん! こいつを置いていくつもりか!」
「無論」
「させんぞ、トーちん。俺はトーちんを、こいつと一緒に、サボりにさせるのだ!」
「むぅーむぅー」
「ボクの事にはかまわず行って! だと!! 生意気な! しかも、今話してるのは俺とトーちんだ! 貴様の出る幕ではない!!」
「つーか、わかるのかよ、あの言葉......」
 妄想じゃないかな。
「むーむー!」
「ボクはサボりになっても、トーちんが遅刻になるんならかまわないだと! おのれ、神子遊人!」
 いや加賀よ、明らかに文字数が一致しないわけだが、どうなんだ。
 ともあれ、トーちんはふうとひとつ息を吐いて、
「あー......もうわかったから。結局、何がしたいんだ、お前らは。もう、早くしてくれ。つきあってられん」
 ひらひらと手を振る。
「ふ......折れたか、トーちん」
「あきれたんだ」
「簡単な事だ......トーちんは、俺の質問に答えればいい。その返答如何によっては、神子遊人共々、ここを通さないでもない」
「言ってみろ」
「俺と神子遊人、どっちを選ぶんだー!」
「は?」
 うん、加賀の思考を理解したくはないが、まあ、こいつは多分、こいつ的に大真面目なんだろう。どういう思考回路なのかはともかく。
「簡単な質問だろう! そう! 今こそ、何も恥じることなく、言えばいいのだ、トーちん! はっきりと! ここで! 俺に! トーちんの愛を! 無償の愛をぉぉぉ!」
「むー!」
「うん、今の遊人の台詞は俺にもわかった」
 うん。
「貴様ら、気持ちで通じ合う仲だと言うのかー! 俺だけ仲間はずれかー!」
 キモい。
「キモい」
「むー」
「な......な......なんだとぉぉぉお!」
「むぅむぅ」
「うなずくな!!」
「というかだな、加賀」
「なんだ?」
「お前と遊人だったら、迷わず遊人選ぶに決まってんだろ。お前よりも、はるかにかわいいからな。少なくとも、見た目は。中身はともかく!」
 ところで、初見読者の皆様は、おそらく遊人の設定を知らないわけだが、まあ、置いておいていいだろう。前もそうだったし。なんか、遊人はもじもじ照れているし。
「な......なな......う、嘘だ! 嘘よー!!」
 なんで女言葉なんだよ。
「あり得ないわ! 嘘よ! 嘘に決まっているわ! 嘘だといって、トーちん!」
「いい加減、うざいぞ、加賀。ほれ、通せ」
「う、嘘よ......」
 ゆらりと後ずさり、遊人を手放す加賀。「ぷは」と、開放された遊人に、トーちんが近づく。
「大丈夫か、遊人」
「トーちん......」
 片膝をついて視線を合わせるトーちんを、上気した頬で見つめ──遊人は言った。
「トーちん......さっきの......」
「ああ......」
 もじもじと──
「でも僕、男の娘だよ?」
 言った。
「知ってる」
 返して、
「おのれぇ! 神子遊人ぉ!」
 迫り来る変態に、
「よいしょ」
 向けて、
「?」
「チョーップ!」
「ぐわば!」
 目からビーム!
 なんかいろいろ紆余曲折あったが、風穴の空いた校舎を見て、トーちんは呟いた。
「悪は滅んだ......」
 自分の胸に手を当てて、よく考えてみよう。
「じ、次回予告......」
 おおう、遊人。満身創痍な感じなのに、わざわざト書きをやんのか。
「伝説の力を手に入れたトーちんの前に、究極の恐怖の大王が襲いかかる......神子遊人の目からビームも封印された今、戦う力をもつのは、トーちんただ独り......はたして、ボブの運命は!?」
 誰だよ、ボブ。ってか、前回もそうだけど、全く関係ない次回予告に、必死だな、お前。
「次回、メガネ vs ラガン、3rd. 絶望の中に、光を──! がくっ......」
 死んだ。


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